居酒屋「一月家」で お伊勢参りと御酒鮫だれふくだめ老舗の風格

ichigetsuya.jpg外宮の別宮であるところの月夜見宮近くの、 名代伊勢うどん「山口屋」でおひるご飯。 そこをご馳走さまっと離れて、 建物のあちこちに看板・店名表示だらけの、 喫茶「ナナ」の佇まいを可笑しく眺めたり、 まるで高級旅館のような「畑肛門医院」の威容を 手入れのされた立派な植木越しに拝見したり、 三色のサインポールを掲げた古民家を見付けては、 玄関の土間に理容椅子がある様子を覗いたり。 そんな風に束の間の散策をしながら、外宮の御橋までやってきました。

神宮の外宮は、豊受大御神をお祀りされている豊受大神宮。 豊受大御神は、神々に奉るたてまつる食物、御饌を司る、 御饌都神とも呼ばれているそうで、衣食住から広く産業の守護神として崇められている。ichigetsuya01.jpgまだ強い陽射しに照らされながら、 手水舎を経て、鳥居を潜ると次第に厳かな気分になってくる。 ご正宮に参拝し、多賀宮、土宮、風宮の別宮でも二拝二拍手一拝の拝礼を行いました。

そうそう、勾玉池の畔に建つ「せんぐう館」は、意外と見応えがあったね。 神宮式年遷宮が伝えて来た技術や精神、 未来への継承を続けてゆくそのたゆみない営みには、 ただただ感嘆するばかりであります。

外宮前、御幸道路のバス停で乗り込んだ三重交通の路線バスは、 五十鈴川駅を経由して、伊勢街道へ。 神宮会館前で降りれば、大混雑の「おかげ横丁」が目の前だ。 そして、「赤福」本店前から曲がり入ったおはらい町通りも驚く程の大賑わい。 沿道の誘惑に靡きながらも、なんとか宇治橋の前までやってきました。

お辞儀をして鳥居を潜り、宇治橋を渡り、お辞儀をしてまた鳥居を潜る頃には、 不思議と畏まった神妙な心持ちになってきます。ichigetsuya02.jpg前年(’14年)に遷宮なった皇大神宮ご正殿は、 3年前に参拝した古殿よりも手前の位置に遷っていました。 正殿を見上げる階段には、沢山のひとが拝礼の時を待っています。

ふたたび、宇治橋を渡って、おはらい町通りへ。 「お豆腐ソフトクリーム」なんかを手に漫ろ歩き(笑)。 復路でのおかげ横丁では、 伊勢うどん「ふくすけ」前の太鼓櫓での神恩太鼓の好演が印象的です。

外宮近くの旅館に荷物を降ろして、夕餉の前のひと休み。 河崎の蔵の居酒屋「虎丸」は、矢張りの人気で予約叶わず。 そこで、のむちゃんおススメの居酒屋へ向けて、町中を散策しながら向かいます。 目標は、尼辻という交叉点。 高柳商店街のアーケードには、ガンダムはいたけれど、ひと通りはない。 それとは別のアーケード、 伊勢銀座新道商店街「しんみち」の入口を尻目に左手に逸れました。

目の前に現れたのは、なんとも素敵な佇まい。ichigetsuya03.jpg二間の広い間口の格子戸の前に白い暖簾。 そこには、左から読む「生ビール」に「御酒さかな」と標してる。 頭上には、四つの清酒の銘柄を刻んだ看板が、扁額よろしく凛々しく迎えてる。 伊勢周辺蔵元の「初日」「東獅子」「鉾杉」に、神宮御料酒の「白鷹」だ。

がらりと戸を引けば、盛況の店内はゆったりとして、 左手にカウンター席、右手に続くテーブル席の先には座敷がみえる。 お姐さんに、「ここ、如何?」と相席含みで手前のテーブルに案内されました。

お品書きはどこでしょうと振り向くと、壁にずらっと並んだ品札たち。ichigetsuya04.jpg早速目線を走らせれば、あれこれ気になるフレーズに気も漫ろ。 「値段が一切書いてないけどご心配なく」との助言を予め得ているので、 その点はクリアだけれど、既に裏返っているヤツも気になって困ります(笑)。

陽射しの強い日だったねと、ジョッキのビールで乾杯して、 まずお迎えしたのが、「かしわきも煮」。ichigetsuya05.jpgこっくりとした滋味に顔が綻ぶ、そんな味わいが、いい。

「さば酢」と迷ってお願いしたのが、「いわし酢」。ichigetsuya06.jpgやや大振りの鰯の青みがかった風味が酢〆に凝縮して、旨い。

こいつぁやっぱりお酒だねと、冷やのお銚子にコップを添えて。ichigetsuya07.jpgそうそう、こちらでの酒肴の注文は、 卓上のメモ用紙に自ら品名を書き込んで手渡すスタイル。 注文を厨房に手短に通すには合理的で、 思案しながら書き込むのもちょっと愉しくて良いのだけれど、 お会計し難いんじゃないかとふと心配になったりします。

これまた「穴子フライ」と迷って決めた、「あじフライ」。ichigetsuya08.jpgほとんどマヨネーズの(笑)タルタルをたっぷしつけて、 火傷に気をつけつつ、がぶりと大口でいくのが宜しいようです。

ダレヤメは知ってても、サメダレは初めて聞いた。 それって一体なんだろうと、興味津々の「鮫だれ」。ichigetsuya09.jpgどれどれと齧ればまるで、炙った鱈のよう。 はて、鮫って云ってるけど実は鱈の仲間なんじゃないのと訝るけれど、 その種類は不明ながら、どうやら正真正銘、鮫の身である模様。 味醂干しにした鮫を炙ったものと思われます。 鮫に思いがちなアンモニア臭的な匂いもなく、ほろっと甘くて、お酒によく合う感じ。 鮫は、古代以来の伊勢地方の郷土食であるという。 神宮の祭典では、今も変わらぬ神饌品のひとつであるようです。

ふと時計の下に掛けられた色紙に目が留まる。 「いろいろとちがいはあれどげにここは つきにいちどはやはりこのいえ 杢太郎」と、 色紙にはある。ichigetsuya10.jpg黄ばんだ色紙ではないので、そんな昔のものではないようにも見える。 でも、”月に一度は矢張りこの家”はまさに、店名「一月家」を表しているね。 杢太郎とはどなたなのでしょう。

「鮫だれ」と並んでもうひとつ、 それってなんだろうと気掛かりだったのが、「ふくだめ」。ichigetsuya11.jpg届いたのは、立派に大振りな床臥(とこぶし)。 じっくりと汁が滲みていて、柔らかな身に香り深くて、実に旨い。

「わかめ酢みそ」には、身の厚い若布にとろっと八丁味噌の酢味噌。ichigetsuya12.jpg沢山食べれてしまいそうな、乙な魅力を何気に潜ませています。

「焼きあげ」は、そのまま焼いたお揚げだよねと云うなかれ。ichigetsuya13.jpgこれまた少し身の厚いお揚げがぱりっとして、 齧って滲む油っけも妙にイケるんであります。

1914年(大正3年)創業という、 伊勢の地元の老舗居酒屋「一月家(いちげつや)」。ichigetsuya14.jpgここまでの風格は一朝一夕には成せないものだよなぁと、 お会計をお願いしたおやじさんが弾く算盤の手元を眺めながらそう想う。 建て直す前の店にはより枯れた風情が備わっていたのだろうなぁとも。 ぐっと寒い頃に、「湯豆腐」や「カキフライ」、 そして三重のお酒の燗を目当てにまた訪れたい、そんな気分です。

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「一月家」 伊勢市曽祢2-4-4 [Map] 0596-24-3446
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