
有楽町線の駅入口も間近な新富町の裏通り。
ちょうど京橋税務署の裏手辺りといえば、
凡その当たりはつくかもしれません。
なにやらちょっとお高いのではないのと思わせる、
静かな佇まいの店がある。
ぴしっと閉まったサッシの格子戸。
神楽坂の割烹の前にでもありそうな、行灯看板。
でも近づいて壁の小さなボードをみるとそこには、
「週替わり 豚肉生姜焼」とある。
見掛けは格調あるも、お献立は肩肘張らないようにも思えます。
恐る恐る格子戸を引き開けると、予想に反して迎えるのが、
右手から二階へと導く階段。


思わず、靴を脱いで進もうとすると、「そのままおあがりください」とある。
なんだかちょっと妙な気分のまま、そろりそろりと階上へ向かいます。
鴨居に頭をぶつけそうになりながら、客間へ。
すると帳場のおばさまが小声で「いらっしゃい」。
テーブルの並ぶフロアは、畏まった接待の場にもなるような、
品良くすっきりとして、でもどこか味気ないようなそんな雰囲気です。


卓上のお品書きには、店先に告知のあった週替わりの定食に、
「エビフライ定食」「エビ重定食」「ロースかつ定食」「かつ重定食」の基本軸。
そして、季節限定の「稲庭うどん定食」と限定品「お刺身定食」。
少なくともおひる時メニューに関しては、肩肘張った様子は見られません(笑)。
ではではとお願いした、週替わりの品「豚肉生姜焼き」がやってきた。

成る程、ロース肉数枚の洋食屋さん的生姜焼きではなく、
バラ肉野菜鉄板炒め的生姜焼き。
こふいふ生姜焼きも悪くありません。
炎天強い日には、これも週替わりの「冷しゃぶ定食」。

それは、糸唐辛子で飾った胡麻ダレ仕様。
どう云えばよいでしょう、なんでもない冷しゃぶかもしれませんが、
そこはかとない安定感を思う冷しゃぶなのであります。
偶には、定番品の中からと、なさそなありそな「エビ重定食」を。

しっかり大振りなエビフライ2尾が丁寧に盛った御飯の上に鎮座。
エビ重ではなくてエビ丼だよなぁとも思いつつ(笑)、早速その一方に齧り付きます。
これまた取り立てて際立つことはないけれど、実に遜色のない出来上がり。
火の入った海老の甘さを楽しむと同時に衣や玉子、
出汁の重ね合わせがそつなく愉しめます。
新富町の裏道に、静かに佇む日本料理「松し満」。

その居住まいには一方ならぬ風格を感じずにはいられない残り香がある。
その実、数年前までは、創業200年を数える立派な料亭が、
新館である今の建物の向かいに建っていたらしい。
この界隈は嘗て、銀座からちょっと離れた、
お忍びで財界人が訪れるような料亭が散在するようなエリアだったとも聞く。
そう云われてみるとそんな光景を見憶えているような気もするものの、
きっとその時は畏れ多くて近づけなかったのかもしれません(笑)。
「松し満」
中央区新富2-9-1 [Map] 03-3551-8000
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