
まだ夏真っ盛りの八月下旬。
1ヶ月程先に念願のお店を開くのよと聞いたのは、
某ピアニストのご自宅のお庭でのことでした。
お店の場所を訊ねると、築地だという。
市場通りと晴海通りが交叉する四丁目の信号近くだというので、当てずっぽうに「ばらくーだ」のある路地辺りかなと云うと、なんで判るのよと逆に迫られた(笑)。
「ふじむら」の跡地だったりして、なぁーんて付け加えたら、なんとビンゴでありました。
そんなこんなでオープンが愉しみなお店へと、
造作の進捗具合を確かめに寄ったりしてみる。

決して広いとはいえないスペースの中央に、三角形に突き出た骨組みが見える。
そのままの位置でカウンターの立ち上がりの下地になるのだとすると、
ちょっと面白い配置のL型カウンターが出来上がることになるね。
その後二度程様子眺めに足を向けるも、
一見あまり進展がないようにも見えて心配だったりして(笑)。

ファサードに硝子が収まり、両脇にパネルが立つのを眺めて安心したのはもう、
開店日の一週間程前のことでした。
いよいよ開店の日。
街角の花屋さんに寄ってから、件の路地へと向かいます。

ああ、丸い刳り貫きはなんだろうと思っていたら、
店の名を掲げる場所だったのですね。
路地に向け、開店を祝う花たちが覗いています。
横引きの硝子戸を開けると、正面にカウンターの角がくる。
造作の最中に眺めた場所そのままにカウンターが配置されています。

天板では、籐を編んだよなランチョンマットが涼しげに。
カウンターの両翼にそれぞれ4脚。

そして、入って左手コーナーとで都合12名が最大収容人数のこじんまり感がいい。

見上げる札は三枚だけど、
開店初日の品はひと品、「親子丼」のみ。
円で描くお店のロゴを内側に刷り込んだオリジナルのどんぶりで「親子丼」の登場です。

たっぷりの玉子にたっぷりの九条葱が第一印象。
そして、その間にコロコロと鶏の身が覗く。
そっと箸の上に載せていただけば、
玉子の風味や葱の甘さの下から顔を出す出汁の旨みに、嗚呼、しみじみ。
「和田」の女将さんは、
京都・七条通り堀川の「大阪屋」(京都だけど大阪屋)ご夫婦の薫陶を受けていて、
女将さんがひく出汁は、その「大阪屋」が錦市場で仕入れる昆布や大阪屋向けに仕立てた節ブレンドと同じものを使っているそう。
鶏は、築地でご存じ「宮川」で捌き立ての新鮮な鶏肉だ。
裏をかえして、築地の路地へ。
「ぶた丼」「他人丼」の提供も始めました、と女将。
然らばと「ぶた丼」を所望します。

鶏に代わって豚の脂の甘さと玉子とのコンビが品よく迫る。
そして、女将さんのどんぶりは、ぎりぎりのところまで火を通すのも特徴だ。
とろとろ半熟玉子のコクで食べさせるドンブリが少なくない中で、
下地で何気に利いている出汁ですすすっといただけるのがこのどんぶりの魅力。
玉子は、徳島・阿波からの玉子を使っているそうです。
間を空けず、またまた築地の路地にやってきて、
今度は「他人丼」をいただくことにいたします。

京都では、牛肉を使うドンブリの方が鶏に次いでメジャーなのだろなぁと想いつつ、
お願いして出してもらった匙を動かします。
うん、豚に比べて断然とはんなりした気分になる、この不思議(笑)。
そして、食べ終わってもまだ胃が軽くて、お代りできてしまいそうに思うのは、
甘く仕立てず、出汁でいただくドンブリならではのことなのでしょうね。
築地の路地に生まれた、
京仕込み出汁の丼と家庭料理の店、おかみ丼々「和田」。

今度は、おばんざいな料理たちと女将さんの笑顔を肴に一杯呑りに、
夜にゆっくりお邪魔します。
「和田」
中央区築地2-14-14 [Map] 03-5565-0035
http://www.okamidon.jp/
column/03314