と、そんな暗がりに揺れる白い暖簾。「たばこ」の文字が目に留まって戸惑うも、 暖簾の縁を飾る雷文にそこが中華のお店であることが判り安堵します。
そっと開く引き戸の向こうには、小さな女将さん。 建物や建具のあれこれが既に傾いでいて、その古色が味わい深い。雑然とした中に、気遣い溢れる手作りの品札、およそ40枚が壁に貼られています。
お品書きの中から探すお目当ての品は勿論、 ジンジャーちんもスペサルプッシュな逸品「肉ショーガヤキ タマゴ入り」。 ワカメスープとライスを添えて、定食に仕立ててもらいます。
ひょ、お、すー、と、うん。 独特の拍子をとって、リズミカルに素早い所作で調理を遂行する女将さん。 あっという間に出来上がったお皿は、しげしげと愛でたくなる見映えであります。
生姜焼いた豚バラ肉に最後の仕上げは玉子とじ。過ぎないように火を入れた玉子の幕が否応なしにそそります。
生姜の風味を殺すことなく甘く包み込んだ玉子がただただズルい。キャベツとの相性の良さを思いつつ、勢いよくご飯を頬張ることになる。 若布たっぷりのスープも嬉しいな、女将さん。
“タマゴ入り”でない「ショーガヤキ」でもいいかもなぁとふたたび環七の暗がりへ。 今度は、大森駅西口からのんびり歩いてアプローチ。
まずは麦酒をとお願いしたいところだけれど、ここ「光楽亭」にはお酒の用意はありません。 ちなみに、持ち込みもお断り。 きっと長っ尻の客や酔客のお相手は避けたいのでしょう。 僅か数席のカウンターに腰掛けていると、 女将さんの気持ちに素直に合点がいくのです(笑)。
方針換えてのご注文は、過日から気になっていた「肉入りタンメン」。 そう聞いた女将さんは、早速足元や背中の冷蔵庫から具材を揃え、 独特の調子でリズムをアゲてくる。 北京鍋を煽るも力強く、スープの味をみては頷いて、ムーンウォークで冷蔵庫の前に戻り、 麺茹で用の寸胴の中を綺麗にして麺を入れ、ドンブリを湯で温める。
はい、おまちどうさま! 目の前に、捧げるように置かれたドンブリの意外な量感にちょっと驚く。そうか、これはきっと中盛りなんだなと思いながら、割り箸を開きます。
化調の助けは借りているものの、 塩梅よく野菜の甘さとシンプルな出汁がじわじわと嬉しがらせるオツなスープ。日頃お野菜足りていないでしょ、とでも云われているような(笑)。 麺をひと通り平らげた後半は、野菜スープをいただいている感じなってきます。
中盛りかと疑わずに女将さんにお金を渡すと、なんと小盛りのお釣りが返ってきた。 ええっと思って訊けば、間違いないと女将さん。 中盛りは、麺がふた玉になるからね、と。 うわぁ、それじゃ中盛りはきっと食べ切れないですーと応えると女将さん、 にこっとしてうんうんと頷き返してくれました。
環七の暗がり角の「たばこ」も目印に雷文縁取る暖簾は、「光楽亭」。時々思い出しては、ただいま~と訪れたい、そんな雰囲気がいいのです。
「光楽亭」 大田区南馬込3-27-1 [Map]
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