店先に立て掛けたパネルには「中おち丼」と認めてある。
1日20食限定、築地直送マグロ、とも。
もしかして、マグロの中おちを揚げちゃってたりして、なんてちょっぴり妙な期待をしながら、久々の暖簾を潜ります。
かつての主人の姿はそこになく、精悍な印象の男が手際よくカツに包丁を入れている。
息子さんなのかな。
少なくとも昨日や今日、油鍋の前に立った訳ではなさそうだ。
中おち丼をと云いながら、例によってカニ歩きでカウンターの中ほどへと進み、肘をつく。
どんぶりは、奥に立つ女将さんの担当だ。
どんぶりそのものはやや小振りの径の深い奴。
そこへまるでご飯が見えなくするように、マグロのぶつ切りが押し込められ、真ん中に骨際から削いだ身を配して、その上にワサビが載っている。
「タレに漬けていますけど、足りなければお醤油を」となれば、あとはもう、わさびをちょっとづつ箸の先で分けながら、掻き込むようにするばかり。
脂のノッたトロの身ではなく、骨際で旨味を凝縮した赤身が層をなす。
しつこさなく、ふむふむと、その層の下からご飯を穿り出すようにして。
そういやぁ、ここのご近所居酒屋「和田家」の「づけ丼」もマグロてんこ盛りだったなぁ、と思い出す。
築地からといっても、場外のどこかで買い付けてくるのかなぁと訊けば、女将さんの弟さんが築地の仲買の関係者で、自ら鮪中おちをこの店に運び込んで、下拵えをしてくれているそう。
そうであるからこそ、とんかつ店で中おちたっぷり盛りのどんぶりが実現したンだね。
そして、「茅」の「茅」も健在。
卓上のピンクソルトのみでいただくに適う、ロースカツ。噛む歯触り軽快に、脂の甘さをすんなりと愉しめるンだ。
茅場町を代表するとんかつ店、「茅」。今度、久し振りに「ヒレカツ定食(1,800円)」をいただこうかな。
些少なれどもボーナスが出たら、ね(笑)。
「茅」 中央区日本橋茅場町3-8-12 [Map] 03-3664-9197
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