冷たい雨の新宿二丁目、裏通り。
どこかでお腹を満たそうと考えるも界隈にはまるで当てがない。
と、すっかり草臥れて古色然とした佇まいの脇に見つけた「ちゃんぽん皿うどん」の文字。
雨の中に浮かぶそのちょっと怪しい雰囲気に一瞬躊躇うも、意を決してアルミの扉に近づきます。
「ねこがいます」の貼紙に、扉の向こうに沢山の猫が待ち構えていたらどうしようと、ふとそんな心配も過ぎったり。
右手のテーブルに座って左手頭上に置かれたテレビを見上げていたオバちゃんが、「あー、いらっしゃいー」と小声で立ち上がる。
テレビの音声はなぜか、足元のレジカセから流れている。
棚には赤茶けたコミックが並んで、その横に一枚だけ貼られた色紙はベッキーのもの。
清掃は欠かしていないものの、長年の風化と塵が滓のように店内を覆っているよう。
猫は目にした限り二匹。隅っこで大人しくしている。
厨房のさがり壁に貼られた品書き
にあるは、「ちゃんぽん」「皿うどん」。
ビールを貰って、「皿うどん(ソース)[上]」をお願いしました。
皿うどんなのにソース、なのだよなぁとなんとなく考えながら、さっきのオバちゃんと同じくぼんやりと頭上のテレビを見上げます。
「はい、どーぞー」。
やけに黒を帯びたお皿がやってきました。
やっぱりこふいふことになるよねと小さく呟いて、そこへ箸の先を入れていく。
つまりは、ちゃんぽん麺のソース焼きそばだ。
しっかりと太目の麺がもさもさとして、たまりのようなソースがもったりとして、あんまり按配はよろしくない。そうは思いながら、ビールのアテにと平らげてしまうのね(笑)。
旨い!という「皿うどん」ではなかったのでけれど、
もう一方の「ちゃんぽん」が気になって再訪してみました。
その夜も先客はなし。
右手のテーブルにいたオバちゃんがテレビを見上げているのも前回見た光景だ。
暫らくして、「はい、ちゃんぽんー」と「ちゃんぽん[上]」のどんぶりが届きました。
モヤシ、蛸げそ、ピンクの縁取りの蒲鉾に木耳などの具材を載せたスープは、褐色に白濁してる。
ひと口目はやや物足りないと思ったスープは、ふた口み口するうちにじわじわ味蕾に沁みてくる。
妙にクドいことなく、さらっとしながら程よくクリーミー。
どこで啜ったちゃんぽんとも違う印象のスープになんだか愉しくなってきた。
恐らく「皿うどん」と同じな麺も、このスープになら違和感はない。
もしやとオバちゃんに「化学調味料、使ってます?」と訊いたら、
「ちょっとは使ってるわよ」とのお応え。
うん、ま、そうだね、でも、すーっと素直に啜れるスープなンだ。
いつからあるのか訊きそびれた、新宿二丁目裏通りの「長崎亭」。
全国に同じ名前のお店が幾つもありそうな気もする。
やっぱり、長崎出身の方が創業したのかな。
振り返って店の表情を眺めていたら、オトコに声を掛けられた。
イヤハヤそうだ、此処は”二丁目”であったのだった(笑)。
「長崎亭」 新宿区新宿2-12-3
[Map] 03-3354-1577
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