column/02349
季節料理「てらい」
いつもの中華「新楽」から帰る坂道。暖簾を払ってでてきたオッチャンの足元は確実にフラツイテいている。そして再び店の中に顔を入れて、「と、隣のスナック、きょ、今日、休み?」と訊いている。ネガティブな答を聞いたのか、急にシュンとして坂道を下りていく。そんな様子を偶然ながら眺めていたら、ちょっと寄ってみようかという気分になりました(笑)。ひとり去ったあとの店内のカウンターに客は、なし。ジョッキをいただいて、お通しの秋刀魚の照焼をつまむ。味が妙に滲みて濃いのは、今日の仕込みじゃないからかもなぁと思いながら、品書きにはなかった「魴鯡の刺身」を酢橘醤油で。蛋白そうに見えて、滑るような脂があり、面白い。焼いても旨いンじゃないのかな。椅子の軋みが気にしつつ、「これ、食べて」と受け取った枝豆でビールをお代わりして、界隈の地元ネタ話のあれこれを大将と交わす。「こまいって、固いヤツです?」と訊くと「生干しだから、柔らかいよ」。焼いてもらいましょう。カチカチに固い干物のイメージが強い氷下魚。なるほど、生干しのこまいは、独特の風味と甘さをその身に含んで、素朴さが魅力の酒肴だね。二匹も載ってくるとは思わなかったけど(笑)。剣先が品切れで、普通のスルメをカジカジしながら、調子にのってウーロンハイ。以前は河岸に買い出しに行っていたそうだけど、今は魚屋からの買い入れにしているそう。それなりに来客があれば、常に活きのいい魚介を置いておけるけど、そんな好循環に乗れていない様子がちと切ない。〆にと「よむぎそば」。蓬(よもぎ)を織り込んだ蕎麦ということでいいのでしょうか。出来合いの乾麺かな。問わず語りに聞くところによると、年内で立ち退かなければならないのだという。またどこかで、お店、開けるのかなぁ。
「てらい」 品川区旗の台5丁目8-21 03-3788-6345