column/01717
鳥料理「浅草 鳥多古」
フランスパンを持って来てね、というお店は世の中広しと云えどもそう多くはないだろね。3週間ほど前に4名での予約を入れた際の最後にその旨のひとことがありました。浅草寺の東側にある「二天門」の前から路地を北に進んだところに、「鳥多古」の提灯が見つかります。昭和初期創業だというその佇まいにいやがうえにも期待を高めつつ、縄暖簾を払いました。あれれ?引き戸が開きません。そう、完全予約制を敷く「鳥多古」さんは、入口の鍵を閉めているのです。硝子をとんとんと叩いて、入れてくれ!と訴えました(笑)。古の雰囲気ある店内をぐるりと見回してから小上がりへ。まずは、3種ある地ビールからドイツの「ヴァイシュテファン」を。深みのある味わいだ。その小瓶をすっと呑み干す頃、「つくね」「レバー」「正肉」の串が順番に届きます。山梨の健見地鶏という鶏を使っているそう。大ぶりにたっぷりとしたサイズの肉からは、それぞれの滋味が伝わって、いい。ベタつかず、きりっとしたタレもまた然り。長期熟成カメ貯蔵とラベルに謳われている球磨焼酎「甕の醒(かめのめざめ)」に切り替え、透明感のある「鳥わさ」を。そして、慌てて高島屋地階で買い込んだ短めのバゲットが活躍するのはここからです。壁の額に在りし日の姿が掲げられている3代目が考案したという「鶏の酒蒸し」は、鶏のソテーとエノキ、シメジや玉葱のスライスなどを炒めて、タルタル風のソースと絡め、パンにのせていただくという寸法になっている。ホールの女性が忙しい中、鶏をばらし、ソースとまぜまぜしてくれる。純和風の情緒の中にあって、洋風の匂いのする逸品だ。「これでバゲット温めてくれたりしたらもっといいよね」と我儘を云うと、そうは思っているんだけれど応対し切れないのよごめんなさいね、と実直なるお応え。ふむ。さらにメインの「たたき鍋」へと宴は進みます。「これは必ず最後にしてくださいね、出汁でますから」と真っ先に鍋の隅に入れてくれたのが手羽先。玉子の黄身をつなぎにした肉団子が赤めの味噌仕立ての割り下に投入され、鍋の定番たちが続きます。ぐつぐつ。肉団子がやっぱり旨い。後半になって、ムシャムシャ食べてしまった「鶏の酒蒸し」でバゲットがお腹にドンと効いてきて、満腹状態に。でも〆の饂飩も折角だからと、投入してひと啜り。ううむ、満足でありました。残しちゃってごめんなさい。いろいろと小難しいところがあるといった噂もあったようだけれど、そんなところは微塵も感じさせない温かい応対にも充たされました。すぐ近くへの移転が予定されているそうだけれど、同様の味と雰囲気を守ってほしいなと思います。そうそう、「鶏の酒蒸し」は、3名さま以上のコースのものだそうですよ。
「浅草 鳥多古」 03-3844-2756 東京都台東区浅草2-32-2