くしろ「炉ばた」で烏賊刺きんき茄子椎茸炉端焼き喜ばしき烏賊味噌しま海老

たんちょう釧路空港から釧路市街へは、阿寒バスが運行する空港連絡バスに揺られておよそ45分。
停留所のひとつ、JR北海道の釧路駅は、懐かしさと寂寞が交叉する佇まい。
赤煉瓦色の三層のラインが飾る駅舎は、その建設を国鉄と地元が共同で行い、代わりに商業施設を設けた、所謂民衆駅の道内で現存する最後のものであるらしい。
民衆駅地下には嘗て釧路ステーションデパートがあったが、2004年(平成16年)に閉店。
駅真ん前のホテルのひとつは今、廃墟のようになっています。

釧路駅開業90周年を記念して設置されたという、
D51の動輪越しに駅舎を見遣る。陽が落ちてから出没するのはそんな釧路駅前ではなくて、
釧路川も程近い末広町・栄町の繁華街。
舗道に埋め込まれた鮭のレリーフを拝み、
鮭を手に掲げる漁師に手を合わせてから向かうは、
炉ばた発祥の店と謳う、
その名もずばり「炉ばた」であります。

それは街灯の色味も手伝ってか、
古色然とした佇まい。寒さの抜けぬ頃まではどうやら、
窓にビニールで目張りをして隙間風を凌いでいるようです。

暖簾を払い、格子戸を引き囲炉裏をコの字に囲む炉端へ。竹で組んだ火棚越しに、
「たらの三平汁」に始まる品札が望めます。

北海道ご当地「サッポロ クラシック」をいただいて、
まずはひと息つく。
「いか」の刺身の按配のいい透明感と、
規則的な包丁の軌跡を暫し眺める。心地よくもねっとりとした甘さが溜まりません。

囲むカウンターの中心には、囲炉裏の主の姿がある。白髪に朱の頭巾の小母様が、煙の向こうに佇んで、
時折焼き物なぞの世話をする。
仰ぎ見た天井のコールタールを塗り込めたような表情に、
炭火の煙に燻し続けた積年を想います。

そんな炭火で焼いておろし生姜を添えた茄子が旨い。ちょいと醤油を垂らした椎茸も勿論のこと。

同時にお願いしていた「きんき」も焼き上がる。やや小ぶりな干物にも喜知次らしい脂の甘さがあって、いい。
そこへ釧路の地酒「福司」の冷やを。
囲炉裏端で呑ってる感、満載であります(笑)。

そしてそして「いか味噌」が喜ばしき佳品。ふんわり炙るように焼いた烏賊の中に、
やや甘い味噌のあん。
その甘さに嫌味なく、
烏賊の身の甘さを倍加させるように引き立てます。
そこへ「福司」をきゅっとね。

「ときしらず」は残念ながら直前で売り切れてしまったものの、
「しま海老」には有り付けた。紅い殻に縞模様がうっすらと浮かぶ。
外した殻の中のミソを吸い、白い身にしゃぶり付く。
これまた上品な甘さを想う旨味に、
ぶんぶん首を縦に振ることになりました。

品書きの「一品」の項にあった「めふん」は、
雄の鮭の中骨に沿って付いている、
血腸(腎臓)を使って作る塩辛であるようで、
これぞ呑ん兵衛の酒の友。「うに丼(小)」をいただいて大団円。
茶碗を飾る雲丹にミョウバンの気配なし。
澄んで濃いぃ旨味にじっと目を閉じます(笑)。

港町釧路で炉ばた発祥の店と謳うは、その名もくしろ「炉ばた」。“炉端焼き”という呼称の発祥は、
1950年(昭和25年)に仙台で開かれた「炉ばた」である、
というのが通説のようではあるものの、
当店が炉ばた発祥の店であり、
60余年の歴史があると品書きの裏にも明示している。
少なくともそれがただのハッタリではないと思わせる佇まいが、
今もここにあるようです。

「炉ばた」
釧路市栄町3-1 [Map] 0154-22-6636
http://www.robata.cc/

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