広尾の駅からゆっくり商店街に進んで、「アクアパッツァ」や「MARCHE AUX VINS」付近を通って明治通りに出て、その昔「Aroma-fresca」のあった側へと渋谷川を渡り、「賛否両論」の前を通って、「園山」のあった路地を眺めて蕎麦「慈玄」の店先の様子を窺う。
そのまま行けば「MASA’S KITCHEN」のある通り。
そこで、素敵な雰囲気を醸すお店の暖簾が目に留まりました。
ちょうど、いつぞやお邪魔した「海南鶏飯食堂2」の向かい辺り。木造モルタル二階建て。
おでん「菊代」のお隣さんの暖簾には、
札幌ラーメン「前川」と刻まれていました。
二階の部屋の住人が几帳面に干し下げた、
布団や洗濯物が風景に味をつけている。開け放した入口から丸椅子の並びが見れる。
古いカウンターは右手から奥に進んでいるようで、
恐らく10席に満たない、小体なお店であることが窺えます。
少々気後れしつつも、こんちはっと暖簾を払う。
タタキに足を踏み入れてすぐのところの丸椅子に、
ちょっと急くように腰を下ろして品札を探します。
献立表の並びにはまず「麺類」の見出しがあって、
次に「サッポロ麺類」「御飯類」「一品料理」と続く。
「サッポロ麺類」は「麺類」とはやはり別物のようです。
カウンターの一番奥に陣取っている、
如何にも近所のご隠居さんと思しき爺さんが、
年の頃もそう変わらない大将に頻りに話し掛ける。
きっと、ほとんど毎日来ているのに違いない。
そんなことを考えながら実は、
味噌ラーメンにしようかチャーハンにしようか、
ずっと迷ってた(笑)。
そこで女将さんにこう訊いてみた。
味噌ラーメンとチャーハンと両方頼むと多いですかね?
すると空かさず女将さんは、
そうねぇ、若いんだからダイジョブじゃない?
と、そう応えてくれた。
…いや、特に若いということはないのですけれど、
…そりゃ、大将に比べたら若輩者には違いないですけれど、
などと一瞬にしてぶつぶつ考えて(笑)、
では、両方お願いしますとオーダーを告げました。
再開発でもう既にぶっ壊されてしまった荏原町駅前にあった、
札幌ラーメン「どさん子」の風景を思い出したりしながら、
女将さんから受け取ったドンブリは、
サッポロ麺類系「味噌ラーメン」520円だ。スープに脂が強過ぎることも、
味噌味が強過ぎることも塩辛過ぎることもない。
そして、当たり前のように大蒜が利いている。
ああ、嘗て街角にあった札幌ラーメンの店のドンブリって、
きっと基本的にはこんな感じだったとよねと独り言ちる。
自家製麺なんて思いも寄らず、
かん水含んだ黄色い麺が通例であった。
そこへ、はい、と「チャーハン」のお皿。お米の粒が纏っているのは、
サラダ油かラードの油か。
きっともう少し油を控え目にして煽れば、
もっと気風よくパラッパラになるのかもしれないけれど、
玉子が米粒にコーティングしたようになるかもしれないけれど、
このチャーハンに文句なし。
これでいいのだ(笑)。
洒落街恵比寿の片隅に、
今も変わらぬ札幌ラーメン「前川」の暖簾が掛かる。現況ではひる時のみの営業のため、
夜しかここを通らないひとには、
知られていない存在なのかもしれません。
「前川」
渋谷区恵比寿1-22-10 [Map] 03-3442-6083