イタリア製の腕時計をいただいた。そう書くとなにやら高価なブランド品のイメージが湧くけれど、 それとはちょっと趣の違うもの。
それは、なんと、木製の腕時計。
それは当然のように軽やかで。
今までごっついダイブコンピューターを普段使いにもしていたので、 その差たるやなかなかのものです。
ところが、ベルトの長さを調整しようと簡素な説明書きを読んでは、
付属していた小さな道具でトライするも上手くいかない。
あんまり強引にすると木製ゆえ欠けたりしてしまいそう。
うー、と悩んで、ここはプロにお願いすることにする。
身近なところでベルト調整してくれそうなところを探して目に留まったのが、
大井町にある某店。
問い合わせを入れると、溝の口に本店があって、
そこならその場で対処できますよってなことで、
まぁ、久し振りに溝の口駅を降りてみるのもいいかと大井町線に乗り込みました。
二子玉川までだった大井町線を田園都市線の混雑緩和のために手を入れて、
急行を走らせ、溝の口まで延伸し、今は時々長津田までそのまま乗って行けるんだ。
たまたまみつけた溝口神社にお参りし、ご朱印をいただいて、
訪ねたのは、時計屋さんというよりは、ブランド買取を主体とした小奇麗な質屋。
ホンマにココかいなと訝りながらも(笑)、無事、ベルト調整を済ませました。
その帰り道のこと。
何本もの道がなんだか複雑に入り組んだ栄橋という交叉点を渡り、
駅方面へと斜めに進んでいき、「時代屋Old Oak」というバーの角を曲がると、
目の前に「溝の口駅西口商店街」という大きな看板とアーケードが出現した。
へーと思いながら侵入すると、アーケードに漂う煙。
煙の元では幾人もが集るように立ち囲んでる。
いいねぇ、焼鳥「かとりや」、人気あるねぇと思いつつ振り返ると、
Y字に分かれた股のところにすっかりオープンな八百屋がある。
昭和というか、戦後な佇まいに思わずうきうきしてしまいます(笑)。
今来た方とは逆の左手の方へと抜けて行くと、南武線を渡る踏切がある。
そして、振り返ったところで、なんとも素敵な光景に出会すことに!
線路のすぐ脇に建つ商店街の様子がつぶさに判る。
南武線の車両が通り過ぎる度に、
その振動とともにすっかり陽に焼けたポリカの波板がわなわな震える。
でも、その狭い通路を通るひと達は勿論、何事もないように行き交っていくのです。
間口一杯に掲げた看板には、串焼き、そして蒲焼、うなぎ「いろは」とある。
ちょっくらちょいと寄り道していきましょう。
既に6、7人の先客さん達が、各々のポジションで吞んでいる。
さて、どこに両足を据えようかと、ひとまず二三歩踏み入ると、
オニイサンこっちこっち的に通路側の位置を促されました。
そうなればシメタモノ、まずはホッピーをと注文を伝えます。
例によって、焼酎はジョッキの中に入ってくるものと思っていたら、
なにやらスタミナドリンクの入ったようなボトルを手渡される。
え?っと思いつつラベルをみると、「燃える男の酒 焼酎」と書いてある(笑)。
いいねいいね、そしてこれできっと何杯吞んだかよく判るもんね。
真横から眺める位置なので見難いながらも、壁に貼られた品書きを確かめる。
煮込みの類はと訊くと、この日はたまたまないらしい。
まぁ慌てることもないかと、まずは「マカロニサラダ」あたりをいただきます。
まず焼いてもらったのは、「つくね」「なんこつ」に「かしら」をタレで。
キレのよいタレ味に満足しつつ、
お皿に添えてくれた味噌と練り芥子をちょと混ぜて串につけると更に旨味倍増。
味噌に織り交ぜたおろし大蒜の仕業だ。
背中のすぐ後ろをチャリンコが通り過ぎる。
棚の隅に置いたテレビでは、錦織が全豪オープンを戦っている。
並んで立って吞んでいる常連らしきオッチャン達が、
うおーとかすげーとか云いながら、愉しそう(笑)。
二本目の焼酎ボトルを貰って、お代わりのジョッキをつくったところへ、
次のお皿も手渡してくれるニコヤカなお兄さん。
「鳥」に「鳥皮」、「ピーマン」の串が手招きします。
ビシっ!と大きな音とともに墨が撥ねて大騒ぎ(笑)。
改めて覗き込んだ焼き台では、
綺麗に並べた墨が豊かな熱量を湛えて妖しい色に熾っていました。
焼き上がった茄子や厚揚げには、たっぷりと花鰹。
薄く表面を炙った「ウィンナー」をはふはふと串から齧って、
ホッピーのジョッキをぐいと傾ける。
そろそろお愛想しましょうか。
戦後の風景、溝の口西口商店街のアーケード。
南武線のすぐ脇を通る通路に串焼き「いろは」の提灯が点る。
八百屋さんと境目も曖昧な右側に対して、
左手には扉を開けて入り座って吞めるスペースもある。
でもまぁ、立って吞るのが素直な醍醐味でありましょね。
「いろは」
川崎市高津区溝口2-4-3 [Map] 044-811-4881