妖しい灯りが誘う通りを往き、 過日、ご馳走になった平壌冷麺の「食道園」の前を通り過ぎ、 ご無沙汰の「上弦の月」のさらに先へ。踏切の向こうの路上に、「喜来楽」の看板が見えてきました。
店の前に立ち、ひょいと店内を覗くと、そこはすっかり常連溜まる呑み屋の風情。 ここに予約のテーブルがあるのだろうかと顔を見合わせる。 だって、たった2卓のテーブルひとつの上にお犬様が鎮座してたりするのだもの(笑)。
と、ニコっとした表情でオヤジさんが顔を出して、右脇の階段に誘います。 ああ、二階があるのねと、その急な階段をギシギシと上ります。扉の中は、よくいうところの、誰ん家の居間に上がり込んだよう。 蒲田の女王ことkimimatsuさんに夏休み中のlaraさん達と囲む座卓に座布団。 テレビの映像が壁に大写しにされています。
冷たいおしぼりを手渡しながら、やぁやぁよく来たね、とオヤジさん。 見慣れないメニューを説明してもらったり、おススメを訊ねたり。 そのやりとりは、本当に叔父さんの家を訪ねたみたい。 幾つかをお願いして、後はもうオマカセで、みたいなことになりました。
最初のお皿は、「緑竹筍」。なんだ、ただの湯掻いた筍かいなと思うなかれ。 生でも食べれてほの甘い、というのが「緑竹筍」の謳い文句なのだ。 さらに面白いのは、そこに添えてくれた二種類のマヨネーズ。 小さなチューブのままで出してくれた台湾のマヨネーズがとっても甘い(笑)! でも、嫌味な甘さでなくて、そのマヨネーズで筍を幾つか口にしているうちに、 これも悪くないなぁと思えてきます。
続いて届いたのが、「絲豆腐」の炒め物。普段メニューに載っているものではないそうで、 蒲田の何処かにある食材屋さんから絲豆腐を仕入れた時にだけ出せるお皿。 ごろんと粒のまま入った大蒜がいい感じに利いていて、旨い。 台湾料理のひとつとして、妙に印象深いお皿です。
オヤジさんが、肉とか魚とか?をミンチにしたみたいなスープみたいな、 と云ってたのがこれでしょか(笑)。なんかもう、手放しで美味しいという感じ。 鶏ガラ系の旨味しっかりスープに、ざっくり叩いて片栗で繋いだ的な肉つみれに野菜や茸あれこれが具沢山に入ってる。 これって、「貢丸湯」でいいのかな。
台湾風薄焼き卵焼き、とでもいえそうなのが「菜脯蛋」。薄く焼いて香ばしいオムレツには、切り干し大根が入っていて、 その塩っ気とちょっと酸っぱいような風味が次のひと口を誘います。
ふと思い付いて、二階の窓をググイと開ければ、 踏切を通り過ぎる池上線や多摩川線が見降ろせる。これも一種の撮り鉄的所作となるでしょか。
割とポピュラーな「大根餅」。 油が余計なのかベッタリしちゃった大根餅も少なくない中、 表面香ばしく、内側ホコモッチリで、美味しく出来上がり。「葱油餅」はといえば、意外としっとりとした焼き上がり。 粉の風味が活きていて、葱卵焼きを包んで、いいコンビ。 どちらも素朴にして、お酒のアテにもお茶うけにもなりそうなオツな佳品だね。
卓上には、唐辛子系辛い調味料あれこれが揃っているので、 それをちょんと載せてみたり、さっきの甘いマヨネーズを試してみたり。 日本人が口にすることを考えて、最初から辛くしないように配慮されているようです。
オヤジさんが、「茶葉蛋」という、茶色い殻の煮玉子を届けてくれた。 へー、お茶で煮ることで、殻が茶色くなってるのねと思いつつ殻を剥く。つるつるっと殻を剥いたらば、あら、びっくり。 蜘蛛の巣状に模様が入って、芸術的ですらある感じ。 さらに、箸先に載せたり、割った時の触感も所謂煮玉子と違って、想定外。 ぷよっと柔らかく、口に含めばお茶の風味がふわっとね。
二階に上がってすぐ、壁の貼り紙にみつけた「牡蠣」の文字に反応して、 すぐさま注文していたのが「牡蠣煎」という料理。謂わば牡蠣入りのオムレツは、「菜脯蛋」とは違って、とろとろに仕上げた薄焼き卵焼き。 牡蠣はどこ?と眺めると、あれあれ?随分と小さい牡蠣の身ではありませんか。 思わず、「か、会長、大変です!あの、ヴァージンオイスターに似た牡蠣がここにも!」と叫ぶことに(笑)。
訊けば、台湾ではこのサイズの牡蠣が普通に流通しているものだそう。 逆に日本に来て初めて真牡蠣を見た時には、あまりに大きくてびっくりしたという。 すると、もしも最初に岩牡蠣「弁天プレミアム」に出会っていたら、 腰抜かしてたかもしれないね。 それにしても、こんな小さい牡蠣が台湾では当たり前のことだなんて知らなかったなぁ。
やっぱり点心も欠かせないよねと「水餃子」に「小龍包」。美味しそう!とスープをちょとっと啜ることを忘れて、 あちちとなるのが「小龍包」のお約束(笑)。 唐辛子系の調味料が揃っていると、ここでもいろいろ試せて楽しいのであります。
そして、〆にはこれでしょと「大腸麺線」を。「大腸」はつまりはそのまま、モツのこと。 モツをことこと出汁で煮込んだスープにオイスターソースあたりで調味して、 そこに素麺のような煮込み用の極細麺をたっぷりと。 お好みでパクチーを散らしていただけば、うん、美味しいぃ。
まさに家庭的な魅力の抽斗あれこれの台湾家庭料理「喜来楽(しーらいるー)」。ああ、ご当地台湾へ行きたくなってくる。 ただ、台湾出身の女将さん曰くは、 唐辛子や八角あたりの香辛料には得手不得手があるので、 最初からお皿の中に使うのは控えめにしているそう。 全体に優しいトーンで美味しくいただけたのは、 そんな女将さんオヤジさんの配慮もあってのことなのかもしれないな。 寒い頃には、鍋料理も交えてまた、本場で家庭的な料理を愉しみたい。 そして、びば☆蒲田。
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「喜来楽」 大田区西蒲田7-60-9 [Map] 090-4527-3392 http://homepage3.nifty.com/shirairu/
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