格子状の硝子戸から覗くとそこには、屋台がある。元は食堂か中華料理屋だったのでしょうか。 ちょうどいい具合のスペースに屋台がすっと収まっている。 屋台を建物内に曳き込んで営業するスタイルには、今はなき茅場町の某店を思い出すけど、あのような荒唐無稽さが漂うことなく、その分小綺麗な印象だ。
間違うことなき、おでんの屋台の長椅子に招かれて腰を落ち着かせると、 眼前に広がるおでんの海。あれこれのタネが浮かび沈むその出汁の海は、澄んでいます。 膝頭が当たっているのは、タイヤの干からびた車輪のスポークだ。
やっぱり気分は燗のお酒。 オヤジさんにお願いすると、「高清水」の一升瓶を傾けて、アルミの酒タンポにとろろと注ぐ。 そしてやおらその酒タンポをおでん出汁の海の隅にセットする。 時折その上に掌を翳して温度を読むオヤジさん。 路上の屋台の頃からの所作なのでしょうね。 さて、なにからいただきましょうか。
やっぱりおでんのスタートは、大根から。がんもどきに海鮮しいたけを添えましょう。 うん、上品な出汁がゆるっと滲みて、いい。
受け皿に零れていた酒をコップに戻して、またつつつ。魚すじにはんぺんになんぞをいただいて。
ふた皿めには、たまごにいわし団子、里いも。図らずも、コロンとしたヤツらの競演になった。
しゅうまいに、ふき、なんてのもオツなもの。こふいふタネって、昔ながらのおでん屋台にもあったっけかなぁ。
これも定番、ちくわぶに牛すじ。ほろっと崩れる牛のスジに典型的な練り物を思うちくわぶ。 ちくわぶは、関西にはないものらしいよね。
ほろ酔いだし、そこそこ満腹になってきたのだけど、〆メニューにどうも気になるものがある。 それがこの、素麺をおでん出汁に泳がせたどんぶり。渦巻きのナルトがアクセント。 結えた昆布をじわっと囓っては、そうめんを啜り、汁を舐める。 なんかこう、ゆる~い感じがいいね、ふー、満腹(笑)。
荏原町の踏切近くに、屋台のおでん「松田」。訊けば、以前は品川の港南口で屋台を出していたそう。 港南口で営業できなくなり、武蔵小杉や武蔵溝ノ口駅で屋台を出したが、 いずれも規制にあい、2年半ほど前にこの地に落ち着いたという。 路上の屋台でおでんを肴に呑む酒の風情が愉しめないのが残念だけど、 それも止む無しか。 寒さ暑さを気にせず通年たのしめるじゃん、と捉えればいい。 扉を開け放つにいい時季にでもまた寄り道したいな。
「松田」 品川区中延4-17-2 [Map]
column/03217