茅場町「真好味」のオヤジさんが亡くなったのは、
いつのことだったかな。
かれこれもう、三年以上が過ぎてしまったかもしれません。
その頃は「真好味」を失った寂しさに、お昼どきにすずらん通りを往くことがちょっと減ったものでした。
そして、「真好味」居抜きのまま開店したのが、
らーめん「昭和」。
当時、「真好味」を引き継ぐお店になるのではという噂がどこともなく囁かれていました。
思い起こすのは確か、「昭和」の開店翌日。
センチな気分にちょっとした期待と懐疑が交錯して、複雑な心持ちのまま座った「真好味」と同じ丸椅子。
啜ったらーめんは、随分とあっさりしたもので、落胆したのが正直なところ。
でもそれは、食べる側の心情が多分に影響してのことでもありました。
その時から、幾年霜。
mi_wa@パンちゃんのところで、なかなかイケる真芳味的どんぶりがあるらしいと知る。
それはそれはと、久し振りに旧「真好味」の丸椅子に座りました。
奥の寸胴の前で捩じり鉢巻きの姿の背中があり、その手前にオバちゃんがいる光景は、
なにやらあの頃を彷彿とさせます。
まずいただいたのは、店名を冠した「昭和ラーメン」。
嘗て残念に思ったのは、きっとこのどんぶりの当時のもの。
澄んだスープにさっと湯掻いたもやしにメンマ、炙ったチャーシューに刻み葱。
12時前に訪れるとサービスしてくれる煮玉子。
あくまで濁りなき塩仕立てスープは、丁寧にひいた出汁の仄かに甘い表情が悪くない。
麺のかん水臭さを包み込むことは叶わずに、でもそれでいいのさという感じがノスタルジックに「昭和」的でもある。
お品書きに”昭和30年代名店の味”とあるのは、どこか特定のお店の味のことを指しているのだろうと訊けば、店の名前は云えないけれど、西日本の某店の味だそう。
そのフレーズから三丁目の夕日的世相をイメージしたものの、そうか、東京の味ではないのですね。
差し詰め「しょうゆラーメン」は、この「昭和ラーメン」の醤油味バージョンといったところでしょうか。
そして件の「辛みそラーメン」。
なるほど、往時を偲ばせるに十分な見映えではある。
どれどれと啜ったスープは、辛さの裏側に明らかな甘さがある。
見た目ほど辛くなく、意外にも間違いなく甘さが支配しているスープ。
一瞬濃密な甘さにも思う旨みは、帆立の旨みか、海老の旨みか、はたまた昆布か。
「真好味」の「辛みそ」は、この辛さと甘い旨みのバランスがより絶妙だったようにも思うけど、どうだろう。
ちょうど他の客が退けたので、大将に声をかけてみた。
訊けば、大将が「真好味」のラーメンを食べたのは一度あるかないかで、嘗ての常連から「真好味」の味の再現を強要(?)され、残っていた伝票から素材の仕込みや配合を割り出し、敢えてきぬさやのトッピングやどんぶりは変えて、”「昭和」バージョンの真好味の味”に仕立てているそう。
「昭和ラーメン」とは全く違う、縮れのある中太麺にも研究のあとが窺えます。
同じ製麺所から仕込んでいるのかな。
安易に「真好味」の味を再現した、とせず、あくまで慎重に”伝説(真好味)の素材でオリジナル”としているのは、事実その通りであることに加えて、嘗ての「真好味」ファンから無用の反発を被るのは本意ではないからに違いない。
「真好味」の味をも彷彿とさせてくれるどんぶりに素直に感謝するのが美味しいいただき方のようです。
「真好味」のあった場所で、オリジナルの「辛みそ」を供してくれるラーメン「昭和」。
判っていても、もしかしたら「貝柱かゆ」を出してくれないかしらん?なんて思ってしまうけど、「昭和」は「昭和」、もう「真好味」はないのです。
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「昭和」
中央区日本橋茅場町3-8-12
[Map] 03-3249-0002
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