四条通りが高瀬川を渡る小橋のところから河原町通り側の小路を往くと、京つけものの「村上重本店」の暖簾が近づいてきます。
その建物に沿うように、そのまま左手の路地に進むと、そんな狭い路地に空席待ちらしき行列がある。
老舗洋食「コロナ」に並ぶ皆さんの目的はやはり、有名な玉子サンドでしょうか。
オジイちゃん店主に逢うことも含んでいるのかもしれませんね。
この晩お邪魔したのはその「コロナ」ではなくて、
「コロナ」のお向かいにある釜めし「月村」。
柳色の暖簾を払うと、こちらも「コロナ」に劣らず盛況で、空席を待つひとが若干名。
静かな熱気に包まれていました。
カウンターは空かず、やや待って案内いただいたテーブルに落ち着けば、
やっぱりなんだかお銚子な気分。
燗酒を所望して、さてどの辺りをお願いすればいいのかと品札の掛かる右手の壁を向きっ放しになる(笑)。
「昔ながらのしゅうまい」なんてのも気になりつつ、まずは「聖護院大根煮」。
素朴な見映えの器に鼻を寄せれば、出汁の匂いに聖護院の香りがほのかにして、いい感じ。
聖護院に柔らかに箸を通していただきます。
ああ、過ぎずかつしっかりした味付けのお出汁がたっぷりと沁みて、山椒の風味が利いています。
おあげさんはどちらのおあげさんなのでしょう。
お銚子をお代わりして待つは、「ぐじ えび芋蒸し」。
若苗色の碗の蓋を外して覗く、葛あんに浮かぶえび芋の、つまりはマッシュ。
山葵を解しつ、すすっと箸を割り入れて、あんを絡めていただけば、ほふはふ。
えび芋のふっくらした滋味に葛に含む旨みがたっぷりと相乗してくれる。
妙な品の良さとは別の魅力があるのです。
底の方で待ち構えていたのが、ぐじ(赤甘鯛)の身。
その身のほの甘さもまた、意外と強めに味付けた葛あんと互いを引き立て合っています。
はんなりと丁寧に応対してくれる女将さんに〆にとお願いしていたのが、「かき釜めし」。
陶磁器の釜の蓋をぱかっと開ければ、立ち昇る湯気。
そこにはぷっくりした牡蠣たちがごろごろっと待ち受けていました。
その釜から直接小振りな杓文字でどうぞ、と女将さん。
出汁で炊いたご飯に蒸し湯掻いた牡蠣の合歓。
うん、悪くない。
ただこうして、汁っけが多くて、
ご飯のひと粒ひと粒が崩れた感じにベタっとしているのが「月村」流か。
炊き込みご飯的な仕上げであったらもっと美味しくいただけそうな気もするけど、具材が牡蠣であることも影響しているのかな。
湯気とともにちょっと水分飛んだらいいのかな、と思って杓文字でご飯をひっくり返したら、そうせず召し上がれ、と女将さん。
んー、これ以上ご飯を捏ねてぐっちゃりさせないようにかなぁ(笑)。
木屋町の細い路地に灯りを点す、釜めし「月村」。
所謂おばんざい料理屋とはちょっと違う風情を思いつつ、それでも間違いなく家庭料理の延長線上にあるような、そんな不思議な印象を抱かせます。
「月村」には、釜めしだけの客もあれば、じっくり呑もうかという客もいる。
狭いお店に滞在時間の違う客たちが訪れるせいもあってか、予約を入れて満席の不安なくお邪魔することは難しいようです。
「月村」
京都市下京区西木屋町四条下ル船頭町198
[Map] 075-351-5306
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