煮干出汁の中華そばに目覚めさせてくれたのが、
王子の先の商店街にある「伊藤」でした。
それ以来のことを思い起こせば、
浅草の「つし馬」や
「凪」のゴールデン街や西新宿、
そして遥か青森の「長尾」や「たかはし」「まるかい」のことまでもが脳裏に浮かびます。
そんな「伊藤」の息子さんが赤羽に店を開いたと知ったのは、
昨年(09年)の5月あたりのことであったでしょうか。
なのに、訪れる機会を得ることもなく、赤羽には足が向かずに過ごしてしまっていました。
池袋での所用を済ませて閃いたのが、そこから赤羽へと向かう埼京線ルート。
息子さんの店「伊藤」は、親仁さんの王子神谷の店よりは断然アクセスのいい、
赤羽駅ロータリーのすぐ近く。
わくわくしながら向かったものの、日曜日ということもあって、売り切れ仕舞い。
がっくりしながら、いっそ呑んじゃえとばかりにその足で「まるます家」へ(笑)。
でもそれで、店の所在はしっかりと分かったのでと、
改めて足を運んだ赤羽駅前。
古い小料理屋を彷彿とさせる建物が「伊藤」の面構え。
入口はというと、正面の引き戸ではなく、その脇を身体を斜めにしながら入った一番奥の扉です。
扉の向こうに券売機。
なんだか沢山食べられそうな気分が背中を押して(笑)、
「肉そば大」と「スープ増し」のボタンをぽちとします。
たまたま席の空いたカウンターの風景も嘗ての居酒屋のカウンターを想わせます。
届いたどんぶりは、注文通りの麺の大盛りで、王子の店で見たと同じストレートな細麺がこんもりとしています。
すっかりスープから浮き上がっちゃっているのをみて、大盛りにしたのはやや失敗であったかもと、そんな考えを頭に擡げさせつつ、まずは蓮華でスープをひと啜り。
おお、ん、あれ?
断然旨いスープではある。
ただ、あのストイックなまでに贅沢に煮干しの出汁の旨みと風味を強烈に利かせていた親仁さんのスープに比べてしまうと、どこか薄く弱い気がする。
最初のインパクトが齎す強い印象と比較してしまったせいなのかもしれない。
煮干しが当然持っている魚臭さを嫌うひとは少なくないけど、それに対処してその辺りを和らげた仕立てにしているかのよう。
使う煮干しの絶対量がおそらく必要なので、決して安くない煮干しの、原価としての課題もあるかもしれないなぁなどと思ったりもする。
とは云え、そんじょそこらの煮干しラーメンのスープと比べれば、やっぱり旨い。
早速、箸の先をそのこんもりした自家製麺へと伸ばして、スープをよく絡めるようにくるりとしてから一気に啜ります。
ああ、このぽきぽきとした歯応えと伝わる粉の風味がいい。
案の定、スープの量と麺の量とのバランスがよくないことになっちゃって、後半はちょっと和え麺を食べてるような、勿体ない事態となりました(笑)。
沢山食べたい自家製麺と沢山啜りたい煮干しスープではあるものの、一度に同じどんぶりに盛り込んじゃうのは、賢いいただき方ではないような感じ。
博多ラーメンではないけれど、替え玉に替えスープなんてできないかしらん(それなら二杯喰えって?)。
一週間後に再度、赤羽にお邪魔しました。
券売機で目にした「比内鶏そば」が気になっていたのです。
今回は、その「比内鶏そば」を中盛りでお願いします。
スープに浮かんでいるのは、透き通るようにした玉葱の粗微塵切りでしょうか。
どれどれと啜るスープに対してやっぱり、どこどこと比内鶏由来の旨みを探してしまいます。
おそらく、スープ単体としていただく構えであれば、加減のいい上湯なのかもしれません。
でも、麺と一緒に食べさせるラーメンのスープとしては、少々ピントが甘いのじゃないかなぁと、そう思う。
ただ、そう思うのは、化調に慣らされ毒された食べ手の問題かもしれません。
もう二度三度と啜ることによって、見えてくるものがあるのかもしれませんね。
赤羽の自家製麺煮干し中華そば「伊藤」。
目指すは、父にして都内煮干し中華そばの雄であるところの、
王子神谷「伊藤」の味か。
はたまた、そのDNAをさらに進化させた自身の味か。
兄さんが営むという鴬谷の「遊」にも行ってみなくっちゃ。
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「伊藤」
北区赤羽1-2-4
[Map] 03-3598-2992
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