やっぱり扉の前で一旦躊躇する。 夜、見知らぬ酒場に踏み込む時のような一種の踏ん切りが必要なのですよー。
扉を右に引いて店内が見えると、やっぱり先客のないのが判る。今日はそのまま入口寄りの椅子に腰掛けました。
丸っこい湯呑みの上に茶漉しを載せて、アルミの薬缶からお湯を注ぐ店主。 その湯呑みを客の前に置いて、 「いらっしゃいまし」と云うのがどうやらルーチンになっているみたい。 「カキフライ、お願いします」。
うん、あ、そうね、って感じの雰囲気でオーダーを受け取った店主が、 例によって玉子を割ってボウルに入れる。 ひとつやふたつの玉子ではない。 そして、大きめの牡蠣の身を準備して、トプンとその玉子の海の中に浸し、 トレーのパン粉の上に置いてパン粉を塗す。 と、再び玉子の中に入れてさらにパン粉を盛っている。 おー、衣の二段重ね。二度づけアリ、だぁ。
そして、コンロの上の油鍋の湖面をじっと見詰めたかと思うと徐ら、 そのパン粉を纏った牡蠣の身をひたひたの油の中にそっと置くようにする。 黒ずんだ油はジジとも鳴らないのでちょっと屈んでみると、 あれれ火が着いていない。 どうゆうことなのだろうとハラハラし始めたところで、着火。 でも決して強い火力ではない。 暫らくして、油が泡立つようになると、 レードルのようなものでその泡を掬っては隣の鍋にせっせと移したりする。 やっぱり不思議だ(笑)。
牡蠣を鍋に入れてから待つこと凡そ20分。 「はい、お待たせしました」。 量感ある牡蠣フライがやってきた。
衣には油の汚れ・滓とも思える黒い粒子を含んでる。二度づけゆえか、所々に玉子の厚みでポッテリした部分があり、綻んでいるところもある。 油のアワアワの名残りが衣にも窺えるね。
箸でひとつを掴むと、一般の牡蠣フライにはないふにんと柔らかい感覚が伝わってくる。 へーと思いながら齧り付くと、その感覚通りの柔らかさですぅっと歯の先を通す牡蠣。生ではないけどレアっぽい火入れが「平兵衛」のカキフライの特異なところ。 そのためにも大振りな牡蠣を用意しているのかもなぁと思いながら、 じゅわんと滲み出た牡蠣のジュースをじっとみる。 といって牡蠣のジュースが巧いこと閉じ込められ、それが”旨い!”に繋がっているかというとどうもそれとはベクトルが違うみたいだ。代わりに例の生臭さを放つ瞬間を持つフライがふたつ。 うーむ。
妖しいお店だけど実は牡蠣フライ旨ぁいー!って展開を期待していたのだけどなー。 期待が過ぎたかなぁ。 「他店に比して全く高次のパラダイムにある」という店主の技術によって絶妙な火入れがされて、牡蠣が旨味が活性すればもしかして凄ンげーことになってるんじゃないか?ってね。
昼にして尚、どこか妖しいとんかつ「平兵衛」。店主にしてみりゃ余計なお世話だろうけど、 ちょっと応援したい気持ちにもなるのは何故かなぁ。
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「平兵衛」 台東区上野6-7-13 [Map] 03-3831-3873
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