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琉球料理乃「山本彩香」で 琉球料理の本懐あんまーの心意気
沖縄料理の本懐を知りたくて、ずっとずっと気になっていた「山本彩香」。沖縄への旅程が決まった早々に、予約の電話を入れていました。
指折り数えて待つうちに、お邪魔する人数がころころ変わって迷惑をかけてしまったけれど、いよいよその日がやってきた。
慶良間でのダイビングの後、シャワーを浴びて、タクシーで駆けつける。
国際通り界隈とはやや距離のある、西消防署通り近くに「山本彩香」はあります。
紺鼠の暖簾から、枯れた味わいを含むすっきりとした印象の板の間へ。
食前酒的に用意してくれているのが、艶やかな縁取りのお猪口に注がれたクスんだ黒褐色の液体。山本彩香さんお手製の「もろみ酢」だそうで、柔らかな酸味のあとから酒粕のような風味がする。
これだけで、山本彩香の世界へ一気に引き込まれます。
香呂のような球形の器を開けるとそこには「豆腐よう」。
初めて沖縄を訪れた際に、そうとは知らずにぱっくりと口にして、その角の立った強さにびっくりしたことが急に思い出されたけど、この豆腐ようは優しい食べ口で紅麹がすんなりと香る。
泡盛を途中で抜いている、らしい。これに合わすにゃやっぱり泡盛もらわなくちゃとあらかじめ用意されてたテーブル中央の瓶から掬うは、「春雨」の5年もの。もうとっくに古酒、だね。
さて、朱塗りの盆に載ってきた前菜が、ミヌダル、ターンム(田芋)、カステラかまぼこ。
ミヌダルは、漬け汁に漬けた豚肉を蒸して、甘辛くした胡麻のペーストを載せたもの。胡麻のコク味風味とあっさりさせた豚とが絶妙の取り合わせ。
下に敷いたフィファチの葉の色が鮮やかだ。
アーサ、梅肉を頂いた「ゆし豆腐」のお椀。出汁の加減もひたひたと、ゆるゆるとした気持ちにさせてくれる味わい。
あおさの磯っぽさも粋な仕立てで、うーん、しやわせ~(笑)。
コーレーグスで辛みを風味づけ程度に使ってもいい。
よくみる泡盛漬けではなくて、塩蔵の赤色鮮やかなコーレーグスだ。
ダイビング談義にざわざわとなっているところをひと呼吸待って、供するお料理の説明をしてくれる。
続いて、「まんぶの刺身」。
まんぶとはベラのこと。
長命草というハーブでひと切れづつ挟んであり、そこへ酢味噌がかけてある。
ハーブの香りがまんぶのほの甘さを引き出すようにして、角のない柔らかな酢味噌が奥行きを与えてくれている。
酢味噌にはジーマーミも入っているのかな。
お造りに、すっごく計算された味の構成を思うのはそうあることじゃないよね。
黒豚あぐーんの塩漬け「スーチキー」。
余分な脂が落ちて、旨味が凝縮しているようで、それでいて塩辛くなんかない。
振り掛けたフィファチがいい香りづけになっています。
地味なのに、何故だか妙に印象深いのが「どぅるわかしー」。ターンム(田芋)をベースに、細かく刻んだ具材たちを和えたものだという。
うーん、いいなぁ。
白と鮮やかな発色の緑のコントラストが目を引くのが「びらがらまち」。
「びら」は葱のことだそうで、白いのは、蒲鉾だ。
ミミガーは、むでーくにーと呼ぶ人参を含む千切りの野菜たちと和えてある。
胡麻(ジーマーミ?)風味のタレがはっとするくらいにあっさりした仕立てで、でも水っぽくなんてない。
しゃきっとこりっとした歯応えも大事にされていて、感心しちゃう。
「ラフテー」はジーマーミを含ませた白みそですうっと包んだ器。
トッピングのグリーンは、うりずん豆だ。
「イカの黒墨和え」の真っ黒いのに透明感のあるコクと甘さが忘れ難い。
「ソーミンたしやー」は、島らっきょと鰹節のコンビが満ち足りた風味を添える。
強過ぎた余計な味付けは、如何に不要か教えてくれてるかのようだ。
かつおだしに浮かべた「ジーマーミ豆腐」。
そして〆るは、宮古小豆&黒小豆+粟のお強と白味噌仕立ての豚の汁「いなむるち」、真紅の西洋蕪(ビーツ)。
そしてデザートがまた美味しい。
「西国米」と書いて「しーくーびー」。活き活きとしたタピオカが生姜が粋に利いた黒砂糖蜜に浮かんでいるのです。
まさにめくるめく琉球料理の本懐にとぷと浸った気分。
お腹は存分に満ちているのに、どこかそよ風に吹かれているかのような清々しい食後感。
沖縄の料理のイメージをそっと根っこから翻えさせられた気にもなる。
いやはや。やるなぁ、山本彩香(笑)。
気負わず、飾らず、手をかけ、工夫を施すを厭わない。
そんな、あんまーの心意気にすっかり惹かれてしまいます。
また季節を変えた頃にお邪魔したい、な。
「山本彩香」 那覇市久米1-16-13 [Map] 098-868-3456