column/02314
酒蔵「秩父錦」
木挽町通り沿いのビルの狭間。その風格ある容姿が目を引く居酒屋がずっと気になっていました。蔵の重厚さを思わす、骨太な造りを覆う瓦屋根。左手の窓際には水車、右手には秩父夜祭りについて記した木板が飾られています。家紋の浮かぶ灯籠に明かりが入った夕暮れ時。遅れず居場所を確保せねばと、そそくさとその暖簾を潜りました。中央のH型をしたカウンターもズンとした厚みを湛えて力強い。待ち人が来るまでと、まずは「新らっきょ」で生麦酒。ちと塩が強過ぎるかも。ぐいんと呑んじゃったので今度は、この店唯一銘柄「秩父錦」を純米から始めてしまう。黒板から一品「金目タイ刺」。滑るような脂の甘く澄んだ蕩け具合がいいなぁと部屋内にも織り成す軒先の屋根の瓦を見上げながら思う。乾杯をしたところで早速、狙っていた「イタヤ貝刺」をと黒板に振り向くと、あれ?消されちゃっている。消されちゃってるってことは、もうないってこと?。嗚呼(泣)。気を取り直して、「かつを刺」。もう既に脂のノリは充分で、かつ鰹らしい香りも高いのがいい。この時カウンター内のおねえさんが口したのが「かつをやま~」の台詞。その品が仕舞いになったことを“ヤマ”という符号を使って伝えるのだという。へ~。「秩父錦」を寒づくりから生酒に代えて、「自家製さつま揚げ」。ころんと丸々とした様子は素揚げしたじゃが芋のよう。熱々をはふはふ齧れば、すり身の食味に外皮の香ばしさが加味して、はふはふ、旨い。「ほっけ正油干し」に続けて、ビールにも合いそうな「紙かつ」。店内は疾うに満席で、硝子越しに覗いては残念そうに離れていく客が少なくない。そんな頃には、「〆さば」も既に“ヤマ”。今度は、気になるヤツ、なくなりそうなヤツからとっとと注文むのだと固く誓う、木挽町通りの夜でありました。
>「秩父錦」呑んで呑んで”中破”のロレンスさん
>そのロレンスさんによると「秩父錦」呑んで呑まれて”大破”だというくにさん
「秩父錦」 中央区銀座2-13-14 03-3541-4777