column/02323
RESTAURANT「Chianti」飯倉本店
東京のイタリアン草創期。その少し秘密めいたサロンに集まる人たちがいたという。文化の先端者たちは、感性を擽り、刺激を交感し合える、居心地のいい、そして自ずと他者と差別化の図れる場所を好んで根城にしていたンだね。界隈にはまだ都電が走っていたという1960年の開店から、もう半世紀が過ぎようとしている。そんな時代の残り香を嗅ぎに、飯倉片町まで出掛けてみました。1階のカフェを覗きつつも、左脇の入口に廻り込んで地階へと潜ります。少し腰を屈める感じが、隠れ家に忍び込むような気にさせる。暗がりに浮かぶ紅白のギンガムチェックのテーブルに案内されました。左手のテーブルにはハーフの姉妹が食事を終えようとしていて、右手は、漏れ聞く会話から察するに、クライアントのお偉いさんが代理店の営業を誘ってのテーブルだ。ランチ「BIANCO」を、お薦めスープとお肉料理でいただきましょう。本日のスープは、かぼちゃの冷たいスープ。南瓜の澄んだコク味に、ブイヨンの煮凝り的塊りの旨味がいいアクセントになっていて、うん、美味しいスープだ。続くお皿は、仔牛とチーズの重ね焼き。バルサミコらしき酸味の裏に醤油の気配を思うような、どこか懐かしさを含んだソースが面白い。添えられているのは、「スパゲッティ・バジリコ」。バジリコの薫りがフンと香るワケでもないのは、乾燥バジリコ少々に大葉やパセリを多めに使う当時のレシピを守っているから、らしい。これが「キャンティのバジリコ」ってことなんだね。デザートは、レモン風味のタルト。暗さに目が慣れてから改めてみると、天井や床が赤や緑で塗り分けられている。その塗り重ねた様子やフロア中央の調度の傷み具合に短くない時間の経過を思ったりする。入口ドアには店内改装のための休業のお知らせが貼ってある。たった2日間の改装なので全面的なものではないにしても、こうしてまた往時の面影が薄れていくのですね。
「Chianti」飯倉本店 港区麻布台3-1-7 03-3583-7546
http://www.chianti-1960.com/