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魚豆根菜「やまもと」
以前から気になっていた恵比寿のバス通り沿いにある「やまもと」にお邪魔してきました。藍色の暖簾を払うと、飛び石のアプローチが迎え、その先には半円に低くした潜り戸風な扉が控えるという設えになっています。頭をぶつけないようにひょいと潜って送る視線の先には、すっと端正な白木のカウンター。すっきりとした舞台が待っていました。差し出されたお手拭きは、「魚豆根菜やまもと」と染め抜かれている。麦酒で喉を湿らせつつ、まずいただいたのが「野菜のスープ」。お猪口を濃緑色が満たし、花びらが浮かんでいる。青汁的様相だけど、啜れば臭みなく、すっきりしたあと味が印象的。身体の中が綺麗に洗われちゃいそうな擂り流しな緑の正体はモロヘイヤだそう。朱のお皿に盛られた付き出しは、トマトの酢漬け、金糸瓜をゼリーに寄せたもの、オクラに寄り添うのはバナナピーマン、鰯、そして花豆。「そうめんかぼかちゃ」とも呼ばれるという金糸瓜の柔らかな繊維質が面白い。バナナピーマンは、味はピーマンで、姿が確かにバナナっぽいンだ。“魚豆根菜”がひたひたとアプローチしてきてる感じ。並べられた九つのお猪口からひとつを選らんでいただく一本目は、甕貯蔵純米酒「鍋島 徴古」。純米らしい懐のある呑み口だ。続くお皿は、刺し盛り。〆た鯵もなにより燻した金目鯛が絶品であります。上等な鴨肉のようなその一片を自家製の柚子胡椒をほんのちょっと載せていただく。滑るようなきんめの脂が薫香で昇華。そこへ柚子の風味を纏った爽やかな辛味がふんと挿す。うへへ。うみゃい~。青唐辛子を使ったどこかザラッとした柚子胡椒が巷多いけど、これからはこの柚子唐辛子を基準にしていこう、かなんか思ってしまう。カウンターの中を行き交うお三方は、ともに短髪に捻り鉢巻。そのうちのひとりが続いて届けてくれたのが、「夏野菜のお椀」。濃厚にひかれた出汁に茗荷やオクラ、庄内・鶴岡の特産といわれる民田茄子などを含み、ビーツの赤が挿し色になっている。う~ん、しみじみ。二本目のお酒は、無濾過純米中取り「南」。一本目と比べて、ふわっとした華やぎとキレのよさを思う。焼き物は、鮎。茴香(フェンネル)と鮎の香りの競演を初めて正面から味わった。「沖田茄子の味噌漬け」「らっきょの酢漬け」「烏賊の正油漬け」でお酒をさらにくぴくぴ。今度は土鍋がやってきた。ふつふつと炊かれているのは、シチリア茄子、ミニトマト、粟麩、車麩、三尺隠元、苦瓜、白瓜、夕顔に麦、大豆、レッドチコリとこだわり野菜の具沢山。ティンカーベルという小さなピーマンが可愛い。三本目にと山田錦と雄町の「凱陣 攻めブレンド」。ボディがしっかり攻めてきて、コクある一本だ。「大根の正油漬け」「蛸の肝の塩辛」「白瓜味噌漬け」でさらにくぴくぴくぴ。「そろそろよろしいでしょうか」(笑)。といことで、「湯葉と玄米の冷たい茶粥」をいただく。まだまだ暑気の残るこの時季に冷たいお粥で〆る涼味がいい。和三盆の黒蜜。桃、ネクタリン、ブルーベリーの水菓子をいただいてさらに和む。ふ~、いいなぁ。市場を通さず仕入れるという野菜たち。その背中をそっと押すような、過不足のないそして濁りのない仕立てに安らいでしまうのです。フレンチでめくるめくのも悪くないけど、こうして和食でめくるめくのもいいものです。
「やまもと」 渋谷区恵比寿2-12-16 03-3280-6630