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手打ち蕎麦「慈玄」で 旨味ひたひた鴨汁せいろ三色そば柚子切り
広尾界隈からの帰り道。
このまま恵比寿まで歩いちゃってもいいかもと、
明治通りを越え渋谷川を渡る。
右へ折れ入って辿るは確か、「POLSECCO」のある、
そして恵比寿新橋商店街と呼ぶひっそりとした裏道ではなかったかな。
そう考えながら進むと右手に、店の所在を知らせる灯りが目に留まりました。手打ち蕎麦「慈玄」。
瞬時に「慈玄」=次元大介、と連想が飛んでニヤリとする。ちょっと寄ってみましょう。
時間が早いのか、先客の姿はなし。
左手に据えられた大きなテーブルの奥に陣取って、「三色そば」と迷いつつ、「鴨汁せいろ」を。
改めて品書きを眺めると、「馬すじの煮込み」「くわいの空揚げ」「鴨皮のさんしょ煮」「ゆばのカニあんかけ」などなど酒肴メニューも充実。
〆に手打ち蕎麦が啜れる酒呑処、そんな風情も漂います。
地鴨を使っているというつけ汁には、じっと誘うような脂がこっそりと浮かび、
お約束の葱と刻んだ柚子と。
やや慌て気味に、打ち立てなエッジの蕎麦を引っ掴んで一気に啜る。
おー、汁に旨味がひたひたと深く、それに寄り添うように粉の風味を開く蕎麦。
うん、いい。
蔵王地鴨の「鴨鍋」もきっとイケるのじゃないかな。
やっぱり、「三色そば」も気になって別の夜。
同じ席に腰を据えて、「三色そば、お願いします」と伝えると、奥から顔を出した店主が「15分ほどかかりますが…」と仰る。
いいですよ、ごゆっくりと応えて、それを理由に(笑)、「じゃ、お燗、もらいます」。
こちらの燗酒は、福島の「大七純米生もと」。
相手にと「かつお酒盗」。
ちょっと塩辛いかなぁと思いながら、ちょびっと舐めてはお猪口を啜るを繰り返します。
その間、鉢に向かって水を回して練っている様子から、麺棒で延ばしている音、続いてリズムよく刻む包丁の音が聞こえてる。
そうして届けられた「三色そば」は、四つに区切った重箱の三辺に盛られています。
奥の右手が「柚子切り」、その手前が「せいろ」で奥左が「田舎」。
ちゃっと順番を考えて、「柚子切り」に箸の先を伸ばします。心地いい柚子の薫りが鼻先を擽って、それは啜る蕎麦切りの残り香にも余韻となって顕れる。
既に知ってる「せいろ」の手練を経て、外皮の風味を加えて太めに切った「田舎」へ。
世に野卑にも映る力強さが魅力の田舎蕎麦もあるけれど、こちらの「田舎」は、加減よく嫋やかにして艶やか。
うん、いい。
手打ち蕎麦と地酒をゆるゆると愉しめる、恵比寿新橋「慈玄」。蕎麦の店で「玄」と云えば、玄そばの”玄”。
そこへ”慈しむ”の文字を添えた本気な手打ちの蕎麦の店に、洒落交じりの店名と勘違いしたのは浅はかなことでございました。
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「慈玄」 渋谷区恵比寿1-24-9 [Map] 03-3444-7088