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いわし料理専門店「長屋」本店
今宵の止まり木を求めて、烏森神社界隈を徘徊する。神社を背にした路地からさらに右に折れた筋に、ぼんやりと浮かぶ「長屋」の看板を目に留めました。ずっとそこにあるような佇まいも悪くない。そっと覗き込むとカウンターにも空席がある様子だ。「長屋」は、歴史浅からぬいわし料理の専門店で、見上げた壁一面に様々な鰯料理のお品書きが貼られています。とりあえずのビールのあてにと「枝豆」を注文むと、なにやら電話を架けている。大将は、一本筋違いの支店にいるらしく、主だったメニューはその支店で調理されて運ばれてくるらしい。厨房を前にしたカウンターでそのやり取りを垣間見るというのは、ちょっと複雑だなぁ。以降は”いわしづくし”にしてみる。お造りは、「たたき」か「なめろう」か迷って結局「お刺身」に。支店から届いたそれは、竹網の容器に盛られたクラッシュアイスの上に生け花のオサライでもするかのような光景をみせて眼前に。林檎の切れ目におろし生姜が置かれ、ススキの穂が揺れています。ちとやりすぎか。肝心の鰯のお刺身が少量なのを取り繕うかのようでもあります。やっぱり鰯も今や高級魚ってことでしょうか。「鰯のさつま揚げ」は、素っ気無い姿ながら鰯の魅力がダイレクトに伝わる一品。熱々でいただくのがよろし。「鰯の梅肉 ゆばの包み揚げ」も熱々でね。「鰯のシューマイ」も湯葉包み仕様だ。楽しいのは「鰯のパン」。アンチョビのパンはありそうだけど、それと違って軽く火を通した鰯の身をそのまま包んで焼いた実直さがいいね。色々ないわし料理を美少年辛口常温のお供でやってたら酔っ払ってきた。そこで〆にはと「鰯のつみれ椀」。しみじみ旨くて、ひと口またひと口する儘、結局一気に啜ってしまうのです。はぁ。本店~支店の融通が控えめで厨房にもっと活気があったら魅力がもっと増すのにな、と烏森神社近くの宵闇に思うのでありました。
「長屋」本店 港区新橋2-15-13 03-3591-5920