居酒屋「どん底」でドンカクピロシキMixピザにナポリタン文化人の根城往時の空気

donzokoそれは今からもう、20年以上昔のこと。 新宿三丁目に足繁く通う店がありました。
お店といってもそれは、雑居ビルの二階にあった所謂カラオケバーで、弱いところもすぐ表情に表して憎めない子供っぽさが魅力のマスターとそりゃもうよく喋るマリさん夫婦が営む店でありました。
通い始めた当初のカラオケはといえば、俗に云う”8トラ”。
武骨な機械の口にガチャリと押し込む、あのカラオケ機器を知っているか否かで年齢がバレてしまう(笑)。
その後一時、レーザーディスクカラオケに切り替わったかと思ったら、あっという間にカラオケは通信されてくるものになったのでした。

そんな新宿三丁目界隈でその頃からずっと気になっている店が幾つかありました。
その中の筆頭が、その名にも慄く「どん底」。
「末広亭」も間近な路地に、まるで苔生しているかのように蔦が絡まり、妖しい雰囲気を漂わせている建物が古色蒼然と佇んでいたのです。

デデンと「どん底」の在り処を示す彫刻の赤い文字。donzoko01見上げた二階にある窓は、堅く閉ざされているかのよう。

乱れた積み方の煉瓦がいい表情で、その脇の扉も武骨重厚な佇まい。donzoko02知らぬものを拒むような静かな力強さを想います。
古材の丸柱は、アジトたる山小屋に闖入してゆくような心持ちにさせてくれます。

ドアを開こうとしてさらに怯ませるものがある。donzoko03だって握ろうとしたドアノブがひとの腕を象ったものなのですもの(笑)。

予約の名を告げて案内される店内は、丸柱に想った通りの山小屋のよう。donzoko04蟻の巣の迷路を昇っていくような気分になるのは、階段の途中にちょっとしたフロアがあったりして、床が幾層にも分かれているように映るから。
なんだか探検心を擽る設えであります。

階段にちょっと隠れた空間を見据えると、古びたシャンデリアの向こうに埃を被ったワインボトルがずらっと並んでる。donzoko05赤いランプに照らされて、ひっそりと”古城”ムードを醸し出しています。

久々に上京してきて顔を見せた仲間を交えて、まずは麦酒で乾杯。donzoko06どんな風にロシアロシアしているのかと妙な期待は的外れな「自家製ロシア漬け」は、和風にも思えるパリッとしたピクルスであります。

やっぱりこれは外せないよと「牡蠣のオイル漬け」。donzoko07漬け過ぎ感のない、いい塩梅のオイル漬け。
日持ちする上に生とは違う美味しさも愉しめるなんて、いいよね。

お野菜も食べておかなければと「大根サラダ」。donzoko09ところで皆さん、刺身の妻もちゃんと残さず召し上がっていますかと訊きたくなったりなんかして(笑)。

麦酒が干せたら次はやっぱり”ドンカク”、つまりは「どん底カクテル」でありましょう。donzoko08元祖酎ハイとも謳われる通りの檸檬風味の呑み易いカクテルで、クイクイと呑み過ぎてしまいそうな予感に駆られます(笑)。

ピクルスに続いて「ピロシキ」も所望する。donzoko11最後に軽く揚げた感じもするタイプのピロシキは、あらかじめ半切してくれている。
割と具は少なめのバランスか。
そう云えば、図らずも真冬のシェレメチボ空港のベンチで一泊してしまった時にも空港の食堂で食べたはずなのだけど、どんなピロキシだったか思い出せません。
折角本場で食べたのにね(泣)。

ロシアものがあるかと思ったら、ザ・アメリカンなものもあるんだねと「チリコンカン」。donzoko10甘めのソースの中にチリパウダーの風味が重なるお豆が旨い。
具がたっぷりなので、添えてくれている薄焼きのクラッカーが圧倒的に足りません(笑)。

“ドンカク”には「どん底カクテル黒」なんてバージョンもある。donzoko12もしかしてコーラが入ってる?的な色合い味わいなのですが、酔っ払いの間違いでしょうか(笑)。

「ハーブたっぷり自家製 鶏ハム」は、バーっぽいひと品。donzoko13しっとりした旨味風味がイケる佳作。
刻んだハーブを包み込んだ様子がその断面からじっくり覗けます。

“ドンカク”を載せていたコースターを改めて眺めると、「どん底」ロゴの周りには、「イタリー料理、ピッザパイ」とか「Spagatti:Macayohi」とかの文字が囲んでる。donzoko14ロシア寄りとみせて、アメリカンのフリして、実はイタリアンなのが「どん底」なのだ。

ということで、どん底自慢の一品と謳う「Mixピザ」も所望する。donzoko15生地を覆い尽くしたチーズの量感が嬉しいピザ。
決して”ピッツア”ではなく、”ピッザパイ”なレトロ風情が泣かせます(笑)。

そうとなったらナポちん、コレも外せないよねと「ナポリタン」。donzoko16細麺ではありますが、じっくりしっかりと煽り炒めた様子がよく伝わる仕立てがいい。
細かく刻んだ茹で玉子が載ってたりするのをどこか懐かしくも愛おしく思います。

たまたま棚の脇のテーブルにいた時に目に留まったのが「どん底」書籍。donzoko17「どん底今昔物語」と題するページには、今の建物とはまた違う迫力の店構えのモノクロ写真が載っている。
それは、1951年(昭和26年)に和洋酒店「どん底」が誕生した頃の写真であるらしい。

店先の立看板にはその創業年と、新宿の酒場で最も古い建物であることが示されている。donzoko18三島由紀夫や黒澤明監督が”ドンカク”のグラスを傾けていた様子を想像するのも一興でありますね。

昭和26年の創業来60有余年の新宿最古参居酒屋「どん底」が今を息づく新宿三丁目。donzoko19Webサイトによると「どん底」の店名は、俳優を目指す学生だった創業者が酒場を開店しようと準備していた時に出演した舞台、ゴーリキーの「どん底」に由来するものであるようです。
その当時、文化人たちが根城にし、きっとハイカラだったあれこれが折り重なって今に続く空気を味わいに、また寄りたいな。

「どん底」
新宿区新宿3-10-2 [Map] 03-3354-7749
http://www.donzoko.co.jp/

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