そんなことをぼんやり考えているうちに、千本中立売交叉点に到着。 目的地は、交叉点近くの老舗居酒屋、銘酒「神馬」の縄暖簾。酒蔵を思わせる老舗の風情に、暫し佇んでしまいます(笑)。
案内いただいたのは、入ってすぐのコの字カウンターの正面柱前。ふと頭上を見上げると、小さな鞭掛風の屋根が設えてある。 その下には、ふたつの馬蹄に挟んで、一升瓶のラベルらしきものが奉げられている。 金の文字が示すは、店の名に同じ「神馬」だ。
まずは大葉で包んだ白身魚や空豆なぞを小皿に盛った突き出しで、 麦酒をちびちびと。ちびちびしながら、 既に黄ばんだ品札やボードの文字を物色します。 銅で巻いたおでん鍋から、「すじ」「ひろうす」「丸大根」。醤油に黒くせず、出汁の旨味が活きるように。 そんな汁にひたひた浸かったおでんが美味しい。 「鯨コロ」は、値段に一瞬怯んで注文できず(笑)。
何かお造りをと思案してお願いしたのが、甘鯛の。添えてくれた三杯酢が甘鯛の身の嫋やかな甘さを引き立てて、成る程よく似合う。 塩焼きや酒蒸しも乙だけれど、アマダイはお造りもまた佳いね。
そして、素魚でなくて白魚(しらうお)の天麩羅がやってきた。シャクっと優しい歯触りの中に含む儚げな甘さ。 どこかとっても贅沢なことをしているような気分になります。
「神馬」の燗酒は、灘の酒6種をブレンドしたものだそう。 これまた銅の赤が味わい深い燗銅壷。 女将さんが柄杓で掬う甕がその横に並んでいます。
そうそう、厠へは、店内の太鼓橋を渡り行く。 奥の引き戸の向こうには、お神酒を奉げた小さな白木の祠がある。 トイレからの帰り道で、ちょっと神妙な気持ちになったりもいたします(笑)。
やっぱりこれは外せないと「鯖きずし」。その麗しき表情に暫し見惚れる。 ハッと我に返って(笑)、刻んだ茗荷と一緒に口に運ぶ。 ああ、艶かしさにまで凝集し活性した食べ口に唸ってしまう。 燗のお酒が合わない訳がありません。
煮付けをひとつとお願いしていた、「めばると筍煮付」。春告げ魚と竹の子の組み合わせがそもそも素敵。 メバルは厚い身ではないけれど、煮汁に染まりかけてふっくらとして、乙な美味しさだ。
千本中立売の老舗居酒屋、白壁には銘酒「神馬(しんめ)」。昭和九年の創業が頷ける、古色を磨いた風情と心意気。 季節が代わる度に訪れたい処とは当に此処のことを云うのだなぁ。
「神馬」 京都府京都市上京区千本通中立売上ル西側玉屋町38 [Map] 075-461-3635
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