ひと影疎らな長い長いアーケードを辿って、地方都市の切ない顔も目の当たりにしつつ、 ホテル近くの国指定重要文化財「大橋家住宅」に寄ってみました。
入館料と引き換えにいただいた小冊子には、 大橋家の先祖は、豊臣氏に仕えた武士であったけれど、大阪落城後には京都に移り住み、 幕府の追及を逃れて大橋を称するようになった。 江戸に入ってから倉敷に住むようになり、水田・塩田を開発して大地主となる一方で、 金融業も営んで大きな財をなした。 飢饉の際の献金や塩田の開発などにより名字を名乗り、帯刀する事を許され、 江戸時代末期には、倉敷村の庄屋を務めるに至った、とある。
そんな大橋家の住まいは、倉敷町屋の典型を示す代表的な建物とされていて、 通常の町屋の域を超える規模と格式を呈するもの。 旧街道に面した長屋門から中庭に抜ければ、忽ち財力ある往時の空気に包まれます。
土間をずずずいと進んだ奥には、土間に面して板の間の台所があり、 成る程、沢山のひとがこのお屋敷で日々を営んでいたことが窺える、 羽釜を据えたおくどさん。据え膳に畏まってご飯をいただく様子が想い起こされます。
何部屋もが続く座敷を回遊するようにしていると、 今はもうない奥座敷側の硝子戸を通して、裏手の様子が覗ける。其処に、創味魚菜「いわ倉」というお店をみつけました。
フローズンな麦酒を口開けに「真いか下足フリッター」。瀬戸内産の真烏賊と思しき烏賊ゲソは、歯応えしっかり柔らか。 噛んで嬉しい滋味が弾けます。
岡山界隈で思い浮かべる魚と云えばやっぱり、ままかり。 いつぞや新幹線車内でいただいた駅弁を思い出す。生からのものに加えて焼いたものもあるという「ままかりの酢漬け」。 駅弁のままかりは開いてあったけど、 こうして一本ものなのが本来の姿なのかもしれません。 甘酢に〆たサッパ(小魚)を骨ごと喰らう野性味は、 新子や小鰭の繊細さとは趣きが異なって面白い。
岡山千両なすを使った「焼きなす」に続けて、 「海老と蓮根のはさみ揚げ」。瀬戸内の地物、連島蓮根に瀬戸内の小海老のミンチを挟んで揚げたやつ。 サキュっとした期待通りの蓮根の歯触りと小海老の身のズルい甘さが相乗して、 嬉し美味し。
これもやっぱりいただいておかねばと、「名物たこ飯」。下津井産の蛸を含めて蒸し上げたご飯に錦糸卵がたっぷりと。 真ん中に載せた蛸下足が愛らしく映ります。 あっさりと仕立てたご飯に蛸の身を含んで蒸し上げたご飯に、 瀬戸内の蛸の滋味が滲みています。
倉敷は国重要文化財「大橋家」の裏手に、創味魚菜を謳う「いわ倉」。乙島しゃこ、がらえび、いしもちの「瀬戸の小魚唐揚げ」とか、 「いかなごの釘煮」「真鯛のあらだき」とか、 寄島産の特大しゃこの「子持ちしゃこ酢」等々、 瀬戸内魚介を活かした気になるメニューに今も後ろ髪を引かれています。
「いわ倉」 倉敷市中央2-1-18 [Map] 086-427-3100
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