昼なお妖しい兎我野町。
ただ、不景気の煽りをまともにくらっているのか、入口を閉ざしている様子の店舗が多く、その分怪しさも息を潜めているようにも映る。
そんな界隈の裏手、ガランとしたモータープールに面して佇むのが、欧風料理「グリル ロア」だ。
ファサードの雰囲気や赤い看板の赤い意匠から察するに、ちょっと小戯れた店なのかしらんと、そう思う。
ところが、迎えてくれたのは、少々怪訝そうな表情のコック帽のオヤジさん。
5席のカウンターに並んで陣取りました。
レンジと俎板に挟まった狭い厨房に三人のコックコートが並ぶ。
三人が三人とも独特の空気を纏っていて、どこかちぐはぐな所作が交錯するのが面白い。
お願いしたのは、「オムカツ」。
「オムカツ」は、店頭のランチメニューには載っていないプチ裏メニューだ。
カレー風味に色付けしたモヤシの酢漬けを添えたサラダが意外とイケるですねーと話している間も、ひとりがフライパンを俎板の上に置き、もうひとりがそれを動かし、オヤジさんがそれを元に戻すといったような、不思議な調理の合奏が繰り広げられているのであります。
それでも、ケチャップライスが炒まり、玉子の膜に包まれ、その脇でカツレツが揚がっていて次第にオーダーの完成が迫る。
カツに包丁を入れ、オムレツの上にONして、褐色のソースをさっとかければ、はい出来上がり。
おお、なかなかのボリューム感ですねと受け取って、早速スプーンに巻いたナプキンを解く。
ありそでなさそな、オムライスにカツレツを載せてしまいましたという「オムカツ」。
その雄姿を改めてしげしげ眺めてから徐ら、スプーンを玉子に突き刺していただきます。
うんうん、うんうん。
カツレツの存在がやっぱり、お皿全体をゴージャスにしていて、そこへ浅い色合いの個性的なデミソースがエグイ旨みを急き立てる。
そう感心していると、中からケチャップライスの酸味甘みがボリュームたっぷりに迫る迫る。
林檎の口直しをいただいて、セットのコーヒーを啜れば、なんだかとっても満たされた気分であります。
コーヒーカップを手に話を訊けば、オヤジさんは北新地のホテルのレストラン出身だという。
いつまで経っても偉くしてくれそうもないので独立して、この界隈で4度ほどの移転を繰り返して今に至るのだそう。
兎我野町の老舗洋食店「グリル ロア」は昼の顔。
夜ともなれば、元来の黒毛和牛ステーキの店に変貌するという。
飾りっ気一切なしの、ベタに旨いステーキがいただけそうな、そんな予感がいたします。
「グリル ロア」
大阪市北区兎我野町12-15 丸一ビル1F
[Map] 06-6312-2293
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