歩く視線の先に望む「大勝軒」は、創業大正13年というのがなるほどと思わせる佇まい。建物はきっと戦後のものなのだろうけど、赤茶に塗った建具に鈍く光る壁の金文字、掠れた深い藍の暖簾。 よくみると、引き戸の中桟にも「大勝軒」と抜いてある。
店内は、翌日からそのまま日本そば屋が営業できそうな、そんな雰囲気。 手前にひと塊のテーブル席があり、奥には神棚を背にした小上がりがある。
「焼ブタソバ」と補足のある「炒焼麺(シャショウメン)」をお願いすると、不思議と不機嫌そうな表情のオバチャンが「今日はない」という。 スープや麺がないということは考えられないので、焼ブタが用意できていないってことなのだろうね。 そんな不意打ちを喰らいつつ(笑)、然らばと「湯洲麺(ヨウシメン)」をお願いしました。
築地王が「ちっちゃい…」と呟いていたと同じ小口径のどんぶりで、その五目ソバがやってきた。 ドンブリの縁には、例の雷門(渦巻きマーク)が飾っているので、間違うことなき中華のドンブリなのだろうけど、ここでもやっぱり、そのまま日本そば屋に使えそう、なんて思っちゃう。ああ、甘く、懐かしいスープでありますね。
他のお客さんが食べていて気になったチャーハンをいただこうと、再び横山問屋街。 テーブルについて一応、品書きを眺めていると、ほぼ同時に席についたご高齢カップルが、「ヤキメシにスープ」とハモった。 同じテーブルのジイチャンお三人が食べているのもどうやらそのセットらしい。 ほう、と思い「じゃ、ボクも」と体よく便乗することに。 「汁錦飯(ヨウギンハン)」がヤキメシ、「肉片湯(ヨウペントウ)」がスープだ。
ここ「大勝軒」では、ヤキメシもドンブリで供される。汁モノのそれと比べてやや浅いドンブリに、綺麗なお椀型の輪郭をみせています。
そして、このヤキメシが、旨い。玉子をたっぷりと纏って、玉子の風味を存分に放っているのに、食べ口はパッラパラ。 何気なくも絶妙だなぁと、感心しつつ、にんまり。
飲み干したスープの底にも「大勝軒」の文字。 ずっと使い込まれた器であるような、そんな気がしてきます。
お品書きの書きぶりからは、本場中国のどこかご出身で、還暦もとうに過ぎた痩せ型のご主人が厨房に立つ姿が思い浮かぶ。横山町「大勝軒」は、そんな大正13年創業からの空気とともに味わうのがいい。 浅草橋にも行かなくちゃ。
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「大勝軒」 中央区日本橋横山町8-12 [Map] 03-3661-7068
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