ひる時に歌舞伎座脇の木挽町通りを通るたび、
その古色が気になるお店がありました。
灯りの消えた小さな看板には、「木挽町 中ぜん」。
渋く枯れた佇まいからは、落ち着いた夜の空気感も窺えるようで、いつか覗いてみたいなと思っていたのです。
カラカラと軽い響きを残して引き戸の先へ進むと、
正面から左手にかけてカウンターがあり、割とゆったりとしたホールの通り側に小上がり
が設えられています。
まだ、先客はカウンター右隅におひとりのみ。
反対の左端から陣取って、麦酒をお願いします。
瓶、だろうなぁと思えばその通り。
硝子のコースターで受けたコップをぐっと干して、厚手の経木にどこか可愛らしい文字で書かれた品書き
を物色します。
「くさやがあるね」とニヤリ。
根みつばの「おしたし」や「たらこ焼」で焼酎を呑るうちに、
匂ってきました匂ってきました(笑)。
迷惑に思うヒトもあるかもしれないけど、ゴメンナサイ、これがいい風情なのですなぁ。
件の経木は一枚のみ裏表。つまりその経木が店内をあっちいったりこっちにあったりするのです。
そして、注文は各自でメモに書いて渡す形式だ。
目の前にある酒燗器を眺めながら、焼酎ロックよりも、やっぱり燗酒の方が似合うのかもねと、「ぴり辛こんにゃく」に「いわし煮」。
パリパリとシャキシャキと軽妙な歯触りの「京風油揚つけ焼」。
荒く叩いた鰯の食べ口にいい出汁の滲みた「つみれ豆腐」。
厨房で懸命に賄うご主人はみるからに相当のご高齢で、女将さんもこういっちゃ失礼だけどお若くない。せっせと手を動かしてくれるので、思わず「ゆっくりでいいですよ」とでも云いそうになるけど、なるほど経木一枚の品書きとしている意味が判ったような気になった。
客の手元それぞれにメニューがあって、銘々が気儘に注文を叫んだら、それを手控えて調理する当たり前の対応が追いつかなくなる事態が容易に想像できるもの。
小上がりもいつの間にか埋まっている木挽町「中ぜん」。
ご主人が、中川善次郎さんとか、中村善太さんとか、なのかなぁ。
今度は、ご主人が作るであろう、「おにぎり」と「おみそわん」でシメてみたいと思います。
「
中ぜん」 中央区銀座4-13-6橋本ビル1F 03-3541-8427
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