ある夜の、浅草観音堂裏を徘徊した帰り道。
言問通りから馬道通りへと辿ったあたりで急に、
ふわぁんと鰹出汁の薫りに包まれました。
思わず立ち止まりその出所を窺うと、なるほど「昔おでん」の貼り紙
がある。
おでんの出汁の匂いなんだ。
なんだかもう、こりゃ堪まらん、って感じ。
ただ残念ながらさっと飛び込むお腹状態でも気構えでもなくて、後ろ髪引かれつつ浅草を離れたのでありました。
後日予約とかできるのだろうかと連絡を入れてみると、予約は受けていないのだという。
家族で営ってる小さな店なのでねーと、姐さん。
「何人さん?」「4人くらいで」「全然大丈夫よ~(笑)」「何時からですか?」「えっとね、5時過ぎ」。
“過ぎ”ってあたりが気になりつつ、5時に行ってみると案の定シャッター半開き(笑)。
すると、「入りな、入りな。そこで立って待ってられると立たせてるみたいで按配悪ぃや」「学校で立たされるのは嫌いだったろ」と大将。
いきなり浅草っ子の気風を味わったかのようで、なんか楽しい。
おでん鍋や酒燗器を横目につつっと奥のテーブルへ。
「ほんで、なにからいく?」。
麦酒をいただいて、おでん前にと「しめさば」「さより刺身」、八丈の「かつおさしみ」の一緒盛りや「みがきにしん焼」あたりをアテにする。
みがき鰊をさらにタレで焼いちゃった酒肴って、ありそでなさそだね。
早速いただいた熱燗のお銚子は、「剣菱」か。
おでんをいただきましょう。
「丸太ごうし」の「名代おでん」タネは、全二十五種。
おまかせでお願いした、第一の盛りは、「玉子」「はんぺん」「昆布」に「ばい貝」「ごぼう巻」「キャベツ巻き」「しゅうまい」なぞ。
「伝統の味」「東京の味」、そして「昔おでん」とも謳うおでんは、それなりに醤油を十分含ませた、確かに“昔ながらの”という表現がぴったしくるおでんだ。
ただ、下町に連想する濃いぃ味かと思いきや案外そうでもなくて、あの夜ふわんと嗅いだ出汁の匂いと連動するようなしみじみ仕立て。
関東煮よろしく出汁を啜れたらいいのにとも思わなくもないけど、それはれそれ。
第二の盛りには、「たこ」「帆立貝」「焼豆腐」「ちくわぶ」「ふくろ」「大根」「里芋」「揚げボール」。
第三の盛りには、「げそ巻き」「うずら巻き」「つみれ」「やりいか」「がんもどき」「こんにゃく」、そして「すじ」。大将が、「大阪のスジと、東京のスジは全然違うだろっ」と顔を出してくれた。
練りモノの「すじ」も「ちくわぶ」も元来大阪にはないものだろうね。
うん、「大根」と「すじ」なんてのがシブいところ。
お品書きには、おでんの「ニックネーム」も書いてある。
「大根」「巾着」はすぐ判るけど、「負け相撲」は「こんにゃく」か。「お春」が「じゃがいも」なのは、「ジャガタラお春」から? 常連の呑兵衛たちは呑みながらそんな遊びをしていたのですね。
レンジフードに貼られた紙には、「いつも春 丸太ごうしの酒の粋」昭和5年サトウハチロー氏作とある。季節に変わらず同じ温もるようなおでんを用意してくれている「丸太ごうし」を“いつも春”と准えていたンだね。
「わかめうどぬた」や「べったら漬け」でさらに呑みます(笑)。
訊けば創業大正15年。登録商標「丸太ごうし」。
細めの丸太の縦格子がその名の由来なのでしょうね。
「丸太ごうし」 台東区浅草2-32-11 03-3841-3192
column/02537
この見世、探しておりやしたンですワ。写真盛り沢山でお見せいたゞいたお蔭で、よく分かりやした。ありがたふおざりィやす。
あっし、喜三二ッて名乗りでべらんめえのブログを書いておりやすけちなぢゞいでござんす。いっぺんあっしンとこにもお出かけくだせえ。
『喜三二江戸っ子修業手控帖』 処ハ上に書いたURLでして。
Re;喜三ニさま
ご訪問ありがとうございます。
偶然目に留めたお店でしたが、とっても気になってわざわざ出掛けた甲斐がありました♪
ブログ、お邪魔しました。
粋な語り口、いいですね。いろんな文献を読み込んで、肌身に馴染んでいるのが窺えます。
どうしてもじっくり読む感じになっちゃうのは、読むほうに修行が足りないということで(笑)。
江戸っ子風情に触れる機会がなかなかそう多くはないのが残念ですが、今後ともよろしくお願いします。