column/02380
すし「櫓鮨」
新地の新ダイビル近くの路地に静かに佇む鮨店に寄せてもらいました。積年を感じさせる設えも重々しいものではなくて、渋くて枯れた雰囲気が心地よいカウンター。ごつごつした石を幕板にしたその天板には大理石が流し置かれています。カウンター横の壁に掲げられた飾り皿に描かれているのが初代の大将だという。大阪出身ながら東京で修行し、のち大阪で独立。江戸前の寿司を供する店として繁盛し、そして今は京都出身の大将が三代目として店を継いでいるのだという。あっさりと炊いた明石の蛸、大葉とたたいた鰺で米焼酎の水割りをいただく。蛸にぎゅっと含む甘さに似たうま味がいい。「握りましょうか?」の大将の問いに、ご同席の御仁はうんそうねと頷き、「ここのは手毬だぞ」と囁く。江戸前の流れを汲む鮨店かと思えばまた予測は中らず、なんだかわくわくする(笑)。中トロに大トロ。なるほど確かにシャリがほぼ丸い。やや柔めのシャリに酢がキッと利いていて、えへへ、旨い。さよりに続いて白板に置かれた車海老の姿がまた美しい。コロンとシャリと身が一体となり、尻尾がピンと立っている。そして、艶かしい甘さ。炙った頭は外殻の香ばしさにミソのコクが色を注してくれる。引き割りした納豆と烏賊を和えて軍艦に載せたり、大トロに湯引きした長葱を海苔で巻いて「ねぎま」としたりと、ちょっとしたひと工夫が愉しい。穴子なんて、穴子の身を折り込んでシャリをすっかり包み込んでしまっているンだもの。ん?この青菜はナニ?と見ると、おー、かいわれ大根だ。ちょっと湯掻いてしなっとさせて握ることで、シャリがうまいこと緑を纏っている。こうして奇を衒わずひと仕事施すあたりは、江戸前的発想からきているのか、はたまた京出身の三代目の流儀なのか。今度また機会があれば、そのあたり伺ってみようと思います。
「櫓鮨」 大阪市北区堂島1-1-20 06-6341-7566