column/01669
洋酒房「ランボオ」
軋ませながら狭くて急な階段を登る。積年の草臥れた味わいが狭い通路にも独特の妖しい空気を漂わせていました。ところが入口のドアには「開店遅れます」の張り紙。止む無く踵を返して階段を降りたところで思案していると、階段下の看板に灯りを挿す女性がいます。「あの、もう開けますか」と訊くと、「はい、どうぞ」。雑然とした印象の店内カウンターには、もう既に先客がありました。「グレンリベット12年」をロックで。掠れたレコードジャケットから円盤を引き抜いて針を落とすと、なにか10年単位で時間が遡ったような気分がふと過ぎる。歌舞伎観劇の話題をひとしきり話すママさんは、偲ぶ人も多いという以前の店主が亡くなられたあとを借りて営業しているそう。常連が屯する店の空気の残滓が流れているようにも感じます。往時の残り香がそこここにあるようで、亡くなられた店主に逢わずして個性の発露を強く感じさせてくれます。
「ランボオ」 杉並区阿佐谷南3-37-9 03-3339-1577