学生時代には、横浜方面にはとんと縁がなくて、おそらく出掛けることも数える程だったような気がする。社会人になってから時折足を向けるようになって、そもそも海があるってだけでもいいよなぁとおのぼりさん気分を味わったものでした。
そう思うのはきっと、”翔んだ”海なし県方面で育ったがゆえでもありましょう。
随分とご無沙汰の本牧あたりには、
なんとはなしに米軍駐屯の残り香が漂って、
エキゾチックな魅力があった。
同じようにエキゾチックでかつ海辺の情緒を覚えた場所のひとつに、
ウン十年振りに訪れました。
JR東神奈川駅を降りて、
仲木戸駅から駅名を変えた京急の東神奈川駅横を通り過ぎる。
そのまま第一京浜を横切り、首都高を潜り運河に架かる橋を渡る。
東神奈川ランプの出口、村雨橋の袂にある案内標識が、
鈴繁埠頭・瑞穂埠頭への方向を示してくれています。
次の運河を渡るとすぐ踏切がある。
再開発も噂される貨物駅 東高島駅へと向かう線路だ。

このレールの上を走る電車に乗る、
そんなことはきっとないのだなぁなどと思いながら、
竜宮橋方面へと渡る瑞穂大橋と瑞穂橋との分岐点までやって来た。
この辺りにかつて海神奈川駅という駅があったらしい。
鈴繁埠頭・瑞穂埠頭へと渡る瑞穂橋はアーチ形で、
ふと隅田川に架かる永代橋を思い出す。

瑞穂橋の先へは、何故か一般人の立ち入りが禁止されている。
瑞穂埠頭は、横浜ノース・ドックという、
在日米軍が使用している港湾施設に含まれているらしく、
連合国に接収されていた時からの名称として、
「ノースピア (North Pier)」とも呼ばれている模様。
橋の袂からは、みなとみらい方面の景観が望めます。
そんな瑞穂橋の右脇で拝めるのが、
BAR「POLESTAR」そしてBar「StarDust」のファサードが並ぶ風景。

「POLESTAR」に営業している様子がみられないのが残念ながら、
建物が解体されることなく残っていてくれている。
このなんとも云えない異国情緒はやはり、
本牧とか横須賀とか横田などと同様に、
駐留米軍の基地・施設の近隣にあり、
軍関係者の文化と嗜好とに直接影響されて、
云わば求められて出来上がったものなのでしょう。
ドアが開け放たれているのをいいことに店内を覗き込む。
まだ明るい時間に他に客がいる訳もなく、
貸し切りのカウンターの止まり木へとすんなりと腰を落ち着けます。


店内のトーンは、アンバー一色。
床板には幾多の傷が刻まれ、
腰壁の化粧板はすっかり薄汚れてしまっている。
吊り下げられたり、重ね置かれたりしている救命浮き輪。
奥の壁には何故か、能面が飾られている。
全体に雑然とした印象なのはもはやご愛敬。
ジュークボックスだけが異彩を放っています。
喉を潤すべくハイネケンでもいただきましょう。
グラス越しにふと見上げれば、
バックバーの棚上を飾る妖しい絵柄が目に留まります(笑)。
さっき入ってきたばかりのドアの外にお客さんの姿。
女将さんがどうぞどうぞと促してやっとそろりと入ってくる。
野良から最近飼い猫になりつつあるネコくんであるようです。
何故だか普段は呑まないジン・フィズなんかを註文んでみたりする。
とても緩い味わいのジン・フィズ。
プロのつくったカクテルでは勿論ないけれど、
これはこれでよいのです。
まだ不慣れな店内が落ち着かないのか、
ネコくんは外ばかり眺めてる。
女将さんに外へ出してもらって、
そこで晩飯にありつけましたとさ(笑)。
ノースピアへと渡る瑞穂橋の袂にBar「StarDust」は今もある。
Bar「StarDust」のオープンは、
終戦から9年後の1954(S29)年のことだという。
ジュークボックスの置かれた様子をじっと眺めていると、
ノースピアから橋を渡ってやって来た米軍施設の関係者たちが、
瓶のビールを片手にオールディーズを聴いている、
そんな姿がぼんやりと思い浮かんできた、ような気がした(笑)。
BAR「POLESTAR」とは逆隣のSEASIDE BAR「Neptune」は、
今も鋭意営業されてるようです。
「StarDust」
横浜市神奈川区千若町2-1[Map]
045-441-1017
http://www.bar-stardust.com/

