名代とんかつ「かっぱ」で美観地区の水辺町並みデミソースかけの厚衣とんかつがいい

初めて倉敷の街を訪れたのは、ザルツブルクの楽団の倉敷市文芸館での公演を聴いた時のこと。
ホールや宿泊した国際ホテルの近くにあり、漫ろ歩いた倉敷美観地区の水辺の情景も印象的でした。
美観地区の入口辺りを歩いていたらちょうど楽天の秋季キャンプで訪れていたらしき、今は亡き星野仙一監督と擦れ違ったことも思い出します。

夙に知られた倉敷美観地区の水辺は、
界隈に行く度に歩きたくなる。天領時代の町並みと云われる白壁なまこ壁の屋敷や蔵、
風情ある町屋が並ぶ裏通りを散策するのもなかなかよい。
大先輩の姐さま達が写生を愉しんでいる様子もいい。

未だにお邪魔できていないけれど、
大原美術館も地区の顔のひとつ。
その脇で蔦の葉にみっちりと覆われた、
喫茶「エル・グレコ」の佇まいもまた印象的。駅から美観地区へと繋がる商店街のアーケードには、
多分に漏れず閉じてしまっている店もみられる一方で、
こだわりのジーンズショップといった新しい灯りもみられます。

そんなアーケードの一角になにやら人影の集まる場所がある。えびす通り商店街の吊下げ看板を見上げればそこには、
名代とんかつ「かっぱ」の文字が見付かります。

人気なお店なのだなぁと思いつつ、
店先のリストに名前を書き入れ、しばし待つ。硝子越しに覗く店内では、
ほぼ全員が女性であるところのスタッフさんたちが、
きびきびと立ち動いて活気を感じさせてくれます。

案内されたカウンター席にて、
黒麦酒の瓶を並べるお隣さんを羨ましく思う(笑)。厨房では、ソースのものらしき大鍋がゆっくりと掻き混ぜられています。

まずのご註文はやっぱりとんかつ定食「名代とんてい」。
カリッとクリスピーな風情に揚げられたやや肉厚な衣。
お肉の厚みも具合よく、
旨味や必要な脂がきちんと閉じ込められているのが、
その断面から想像できる。そしてそれが間違っちゃいないのが齧ってみればすぐ判る。
色んなエキスたっぷりのやや甘めなデミソースには、
こうしてしっかりとした衣がよく似合います。

店内の貼紙も然り、お品書きの末尾にも明記の通り、
練り辛子の追加に料金はかからない(笑)。
まぁ、ぜひ使ってみてとのサインなのでしょう。濁りなき旨味を湛えるデミソースそのままでも、
十二分に美味しいのだけれど、
ちょっと悪戯をするように辛子も絡めてみれば、
不思議とまた少し別の美味しさが顔を出す。
とんかつに辛子と思えば割と普通のことだけど、
デミソースに辛子となると案外レアなことのようにも思う。
昨今、時に話題となる味変を志向する気は全くなくって、
そのままいただくのがモットーなのでありますが(笑)、
ベタだけど至極尤もな挿し色だなぁとそう思います。

倉敷は景観地区の水辺へ向かうアーケードに、
ひとを集める店名代とんかつ「かっぱ」がある。地元で古くから親しまれてきたというお店の創業は、
1961年(昭和36年)のことだそう。
倉敷出身であるところの平松洋子女史が、
いつぞやの雑誌のとんかつ特集の1ページで、
郷愁抜きに美味しいと紹介してらした「名代とんてい」。
人気店ゆえなかなか訊き難いのではあるけれど、
今度こそ店名「かっぱ」の由来についても、
訊ねてみたいところです。

column/03769