びすとろ「UOKIN」の前を通り過ぎて、川沿いにテラスを抱えたカフェの前を往き、キッチンカーや「メゾン・カイザー」を素通りして真っ直ぐ進む。
妙に高いタワーマンションなぞを横目にしながら、これらが建つ前には何があったんだろうなと考える。
答えが見つからないまま御殿山小学校の敷地の角を右に折れると、そこにずっとあったよな暖簾の揺れにほっとします。
如何にも自宅兼用店舗の構えの三階建て。賃料をテナントとして払うのではなく、
所有しているのであろう店舗で営むことの安定感を、
なんとなく感じつつ潜るのは、
御殿山のそば処「やまもと」の暖簾です。
壁の上には額装黒札の正しき蕎麦店のお品書き。わらわらと集まってくるご近所勤めのひと達は、
そのほとんどの註文が「天ざる」600円也であります。
急に自分の中の天邪鬼が顔を擡げてきて(笑)、
このひるのご註文は「天せいろ」。揚げ玉の入った温かいつけ汁を添える「天ざる」に対して、
「天せいろ」は海老天を一方の枠に収めた重箱でやってくる。
少なめにも見える蕎麦の盛りは、見掛け以上にたっぷり。
機械打ちではありましょうが、
町の蕎麦処の誠実なる姿に映ります。
辛くも甘くもない正調の江戸前つゆに注ぐは、
白濁もしっかりの蕎麦湯。美味しい蕎麦は蕎麦湯も旨くて、
ついつい沢山いただいてしまうものですね(笑)。
お蕎麦に使わなくなって久しいので、
薬味の葱を降ろした小皿に練り山葵が残る。“三つ違い山形”が「やまもと」さん家の家紋のようです。
秋口の或る日には、
何故だか「かき玉そば」の気分になる。やや甘めの甘汁に掻き玉子の甘さが加わって和む味わい。
熱い汁に浸っても日和ることのない蕎麦に好感です。
ところで「かき玉」と「玉子とじ」との違いって、
どの辺りにあるのでしょうね(笑)?
タワーマンションに囲まれつつ今を営む御殿山のそば処「やまもと」は、
きっと今日のおひるも大人気。営業は平日の昼のみと、
圏外に勤めている者にはなかなか伺う機会が得にくいけれど、
今度は素直に「天ざる」にしようか、
それとも「かき玉」「玉子とじ」の謎を解こうか、
ひっそりと思案しています(笑)。
「やまもと」
品川区東五反田2-22-12 [Map] 03-3444-4457