海辺の街ではあるけれど、日本のような湿気がじわじわ迫る感じとはちょっと違う。
薄ら涼しい夕暮れ時には、近くの海岸線の舗道へと出掛けるのが日課となってる人が少なくない。
汐の匂いと波の音に包まれつつ、舗道を行き交うひと達と刻々と色と表情を変えてゆく空を眺めていると、何処からともなく海猫が集まりだしてきます。
海辺を離れて通りを歩くと、
見上げた空に朧に滲む満月が浮かんでる。例の隙間からサンテウフェミア聖堂の時計台を覗けば、
満月と時計台が並んだ、
これまたなんとも印象的な景色を呈してくれていました。
そんな時計台の脇を抜けるようにして暗がりを歩いていくと、
その先にぼんやりとした灯りが見えてきた。果たしてそこが目的地なのでありましょか。
勝手知ったる様子でコンバンハと潜り込む、
その後に続いて灯りの中に入るとそこは、
多くのひと達の肘で磨かれたカウンター前でありました。
人懐っこそうでいて、どこか訳知り顔のマスターが、
アンタは何吞むのかな、なんならコーラもあるよというような、
悪戯っこな眼差しを送ってくるので(笑)、
見上げた棚にあったブランデーのボトルを指差してみる。
すると、お、そうきたか、
それは意外だなぁとかなんとか呟きつつ、
グラスに注いでくれた赤味の鮮やかな琥珀色。「VECCHIA ROMAGNA」の滴を、
ちょっとづつ舐めるようにいただけば、
濃縮した香りが舌の上から鼻腔へと、
解き放たれてゆきます。
「VECCHIA ROMAGNA ETICHETTA NERA」は、
エミリア・ロマーニャ州ボローニャ市の産で、
オークの小樽で3年以上熟成したものであるようです。
と、足許では愛嬌たっぷりの仔犬がじゃれてくる。お客さんが連れていた犬が忽ち、マスコットのような存在に。
仔犬の動き回る様子や表情を愉しく眺めながらグラスを傾けていると、
ひたひたと酔いが襲ってくるのです。
そしてなんと、同じカウンターに翌夜もいた(笑)。
前夜のブランデーからの流れなのか、偶々なのか、
今度はラムの高峰「RON ZACAPA XO」のボトルの封を切ってくれた。なぜか目の前には、ザッハトルテ。
荒ぶる若いラムとは違う風格を思わせる濃密な赤。バーボンやシェリー、さらにはペドロヒメネスの樽やコニャックの樽で熟成したラムたちをブレンドしたものであるらしい。
うーむ、複雑にして一本気。
まろやかにして押しが強い。
そんな一杯のグラスをよくみると、しっかり店の名が刻まれてる。
チェイサーに炭酸水をお願いすればよかったな。
グラドの裏道にBar Taverna「AI PATRIARCHI」がある。“PATRIARCHI”は、”家長”や”族長”、
もしかしたら”酋長”といった意味であるらしい。
「AI PATRIARCHI」はバールらしく、
ランチタイムの営業も鋭意遂行中であるという。
ひるに、そして遅い時間の夜半にもふらっと寄れて、
思い思いの酒や食事に会話が愉しめる。
そんな長兄の家の止まり木に、
今日も町のファミリーが訪れてきていることでしょう。
「AI PATRIARCHI」
Campo Santi Ermagora e Fortunato, 5 34073 Grado,Itala [Map]
+39 0431 80149