おでん屋台が立ち並んでいるような独特の設えと、
映画演劇、出版界なぞの文化人が、
夜な夜な集うような独特の雰囲気がある。
「陶玄房」「犀門」と並ぶその姉妹店のひとつが、
酒処「浪曼房」です。
「竹馬グループ」4店舗のいずれもが、
まさに独特の雰囲気を醸す個性的なインテリアデザインを施している。
その中で特に「浪曼房」のファサードは出色のもの。アンモナイトをモチーフにしたかのようなアーチで扉を囲んでいて、
頭上にはどこか懐かしいリベット留めの鋼製看板が名を示す。
バブルの終末の頃に日経BP社が出した、
「東京デザイナーズレストラン」に載っていたのではと思ったりなんかいたします。
地階への階段は、何処かの修道場の酒蔵へと下りるそれのよう。白壁を照らすステンドグラス調のランプたち。
何故かマンボウを象った鋼製の枠の中に緑色のボトルの底が並んでいます。
欅の無垢板を用いて重厚に迫るテーブル席にしか座ったことがなかったので、
小上がりのようなスペースがあることをその時に知ることとなる。ランプの彩りは勿論のこと、梁のデザインにも大胆さと力強さが籠もっています。
来日中(!)のsepp先生とどうもどうもと乾杯をして、
まず迎えたお皿が、「あん肝煮付け」。さらっと煮付けたあん肝がふくよかさを増しているようで、なかなかイケます。
お品書きに、ときどきあります、と注釈のある「獺祭」の純米大吟醸50を呼んでみる。
うんうん、澄んだコク味がフルーティに膨らむ、美味しいお酒でありますな。塩の利いた「焼き銀杏」もよく似合います。
やっぱりこれは外せない、と「牡蛎フライ」。牡蠣の身の平たい形状がそのままフォルムに現れて。
もうひとつ食べちゃってもいいですか(笑)。
お刺身は、鹿児島の産だという「ゴマハタ刺」。ホウセキハタを市場では「ゴマハタ」と呼ぶらしい。
浸した醤油にちょっぴり脂が滲む。
さらっとした歯触りの中から滋味がじわっときて、美味しい。
こんな組み合わせ見たことないヨな、
「ゆり根とランチョンミートの天ぷら」。ご存知、ゆり根のほっこり甘い食べ口に続けて、
衣と一緒に味わうは、うちなーんちゅ云うところの”ポーク”のお味。
いいね、面白いね。
水面に浮かぶのはその爪先か、
「蟹とニラの玉子とじ」。ふるふる玉子の出汁には、蟹の滋味が滲んで、
そこへ韮の青い匂いが色を注す。
しみじみ美味い器であります。
「獺祭」のお代わりをいただいて、
宮城からの「炙り〆さば」もお迎えする。浅く〆た鯖に皮目の香ばしさが加わって、
うん、獺祭の旨さを押し上げてくれる感じ。
「若鶏の唐揚げ」ほか三品ほども平らげて、
そろそろ〆ようかと「チョリソーときのこのバジルピザ」。しっかり香ばしい系統のこんもりチーズの所々で、
チョリソーとバジルの風味が交錯する。
キノコ控えめな感じが反ってオツに思います。
甲州街道の跨線橋を脇に見る新宿の暗がりに、
酒処「浪曼房」がある。創業から四半世紀以上が経っても、
陳腐化を思わせない意匠が素晴らしい。
奇を衒った造作のお店は往々にして、
供される料理酒肴が薄っぺらなものになっていってしまう嫌いがあるけれど、
此処には、どこぞのチェーン居酒屋には真似のできない、
地に足のついた気概と脈々と培われた気風を思わせて、いい。
久し振りに「池林房」にも行ってみようかな。
「浪曼房」
新宿区新宿3-35-3 君嶋ビルB1 [Map] 03-3352-1991
http://www.chirinbou.com/