白い万能鋼板で仮囲いしたかと思ったら、 あっという間に解体された旧キリンの建物。杭を抜いているのでしょうか、打っているのでしょうか。
その先、新川二丁目交叉点を左折するとすぐにあるのが、 御食事処「神谷」の暖簾。置かされたと思しきビールの捨て看板(キリンビールの看板ではないね、笑)が、 店先で目立つくらいで、何をアピールするでもなくひっそりとして、 気がつかずに通り過ぎてしまいそうです。
がらっと引き戸を開けて、おばちゃんに迎え入れられる。 店内は、簡潔にしてゆったりとしていて、 なんだか時間の流れがここだけゆっくりのようにも思えてきます。
お品書きは卓上になく、 入口入って左手のショーケースの上のサンプルから選ぶスタイル。定食あれこれが全部で15~16種類くらいでしょうか。 品札が片寄せあうようにして選ばれるのを待っています。
それは例えば、「生姜焼き」。焼いて尚且つ堂々とした大きさの豚ロースがしっかり2枚。 ステンレス皿を嫌うひとも少なくないけど、ボクはノープロブレム。
うんうん、食べ応えが嬉しい生姜焼き。 生姜がしっかり利いていて、それが脂の甘さと渾然となって、よりご飯を旨くする。そんな生姜焼きなのに、おばちゃんが中濃ソースと醤油の瓶を揃えてくれたのは、 きっとそんな趣味と癖のあるお客さんが他にいるからなのかもしれないね(笑)。
焼いた秋刀魚をいただいたり、赤魚鯛の「かす漬け」をいただいたり。 そしてその日の気分は、「ハンバーグ」。目玉焼きを載せたハンバーグは、意外と肉肉しい奴。 改めて小指の先で舐めたブラウンソースが何気に美味いのであります。 日本橋「たいめいけん」での修行経験ありという噂を嘘とする理由は見当たりません。
秋が深まってくれば、「カキフライ」も登場する。今年ももうそろそろ出番が廻ってくる季節だなぁと一年前を反芻すれば、 熱に活性した牡蠣の旨味と衣の香ばしさが思い出されて、思わず唾を飲み込むことに。 暑くてもやっぱり夏が好きゆえ、寒くなるのは寂しいけれど、 牡蠣フライの季節到来は大歓迎だものね。
おばちゃんが厨房から料理の品をやりとりしている、厨房前の下がり壁には、 堂々と大きな関取の写真と手形を押した額が飾ってある。訊けば、写真や手形の主は、第44代横綱 栃錦。 写真の額縁には、昭和29年秋場所、毎日新聞社、と書き示してある。 1954年の秋場所は、栃錦が4度目の優勝を果たし、横綱昇進を決めた場所。 亡くなった「神谷」の大将の弟さんが相撲取りで、 その繋がりで笛や太鼓の方々が店におみえになることもあったそう。 今でも國技館のチケットのあてがいがあるみたい。 今場所は、新入幕での脅威の躍進を魅せている「逸ノ城」がいて面白いねと、 おばちゃんと会話を交わす。 日本人力士にも頑張ってもらわなあかんけど、体格が違い過ぎるけどね。
壁に黒いアクリルのプレート5枚がそっと下がってる。 示すは、「生酒」「清酒 上撰」「ビール」「生ビール」に「デンキブラン」。 焼酎でもホッピーでもなく、 「デンキブラン」が仲間になっているのがちょと面白い。 同じ神谷さんだし、もしかして「神谷バー」と関係があるのかな。
新川二丁目交叉点近くにそっとずっと佇む、御食事処「神谷」。額の栃錦関が4回目の優勝を果たした昭和29年には、 お店を営んでいたと考えるのが、順当なところ。 そうすると、少なくとも60年以上の歴史があることになる。 客筋は、勝手知ったる風情の人生の先輩たちが大半ではありますが、 みなさん、居心地よさそうに食事されているのが印象的です。
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「神谷」 中央区新川2-12-9 [Map] TEL非公開
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