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京・南禅寺畔「瓢亭」で冬の名物鶉がゆ旦那衆の夜遊びの残り香
京都、南禅寺の朝。
比較的暖かい朝なのだろうけど、
それでもひたひたと冷えている。
多分初めてではないような、
でもいつ訪れたか全く思い浮かばない。
500円もの拝観料を払って三門の五鳳楼に登り、
「絶景かな?」と呟いてみる(笑)。
ふーむ、眺める景色がデジャヴのように思えて、
ちょっと不思議な心持ち。さて、参道を下って恭しく訪れたのが、”南禅寺畔”と謳う料亭「瓢亭」。本店の枯れた佇まいを横目にしながら、並びの別館の暖簾を払います。
シブい風情にとくと浸れるといわれる懐石料理の本店に対して、そのカジュアル版にあたる別館は、おかゆと松花堂弁当に特化した別棟。
設え新しく、積年の風雅を思わすような味わいを楽しむには当たりません。
それでも朝から、ワクワクしてる(笑)。
別館の冬の名物は、三月末までの「鶉がゆ」。
まず届けてくれた膳は、瓢箪を模した三段重ねの小鉢を向こうにして、八寸に五品の前菜が凸の字に並んでいます。
菜の花の胡麻よごしに、鮎を挟んだ玉子の厚焼き。
真ん中の手鞠り風は、鯛の握り。
そして、限りなく生に近いほどにとろんと半熟の玉子だ。
名物と謳われるふるんと繊細な茹で加減も、感激するほどのものに思えないのは、ラーメンのトッピングであれこれ余りに慣れちゃってる所為かも(笑)。
瓢箪の三段は、しゃきっとした野菜たちのぬた、解した鰆の身をもずくと一緒に出汁に浮かべたもの。
そして、揚げた賽の目のお麩や金時人参などを炊き合わせたもの。
なんだかやっぱり、朝から熱燗が欲しくなる風情であります。
呑んでいいのかなぁ(笑)。
少し間を置いて届いたお椀がまた、いい。
白味噌仕立てに、揚げた極薄切りの蓮根が浮かんでいて、南禅寺麩に和芥子が添えてある。
そうか、芥子の風味と白味噌はこんな風に合うンだったね。
白味噌椀を飲み終えたところへいよいよ、おかゆが到着です。ぽってりした器の蓋を除けると、ふっと立ち上る湯気。
茶碗によそり、箸で啜ります。
なんだか急に気持ちが和らいで、肩の力みが解かれるようなほっこり。
押しつけがましい旨味ではなくて、すっと馴染むような出汁味が小さく刻んだ鶉の身からもふっふと沁みてくる。
朝から妙に旨過ぎるのではなくて、頃合がことの上手とそう思える心持ちの不思議。
祇園界隈での夜遊びした京の旦那衆が芸者を連れ立った朝帰りに食事を所望したことから始まったという、瓢亭の「朝がゆ」。
酔っ払った遊び人の旦那が、寝休んでいる庵の主人を叩き起こして我が侭を叫んでいる様子が脳裏に浮かんできた。まぁそれが粋なことだったかはさておいて、今やこんな風に観光名所になっているなんて想像もしなかっただろうね(笑)。
いつぞや再び訪れるならば、本店の茶室で夏の初めの「朝がゆ」、ってのが情緒だね。
「瓢亭」 京都市左京区南禅寺草川町35 [Map] 075-771-4116 http://hyotei.co.jp/