満席のカウンターを背中越しに眺める。和気に満ちたこの空気感がこの店の魅力のひとつなんだろうことがすぐさま感じとれます。
経木に描かれた品書きには、ざっと40種類ほどが並ぶ。狭い幅に記そうと、スリムな書体になって、 ン?なんて書いてある?ってところが処々にあるのが微笑ましい。
「てっぱい」ってなんだろうとお願いすると、それはつまり分葱の”ぬた”。しゃきしゃくっとした分葱の歯触りに馴染んだ濃さの塩梅のいい酢味噌。
「しめさば」は、鯵酢を連想するような仕立て。二杯酢様の汁に浸って、おろし生姜をぴりっと利かせて。 しまった、こりゃ麦酒じゃなくて端から燗酒じゃなくっちゃだ。
「酢がき」には、一味と大根おろし。酢で洗った牡蠣をもみじおろし的薬味でいただくってのも、 オツなものだと改めて感じ入ります。
カウンターが空いたので移られますかと誘われて、おでんの鍋の前。 みっつに区切った大きな鍋には澄んだ出汁がなみなみと張られてる。 使い込んだ風情の長く平たい匙が個性的。 鍋の脇には酒タンポが挿し込めるようになっている。 大根とひろうすをいただきましょう。
丁寧にひいた出汁がことこと滲みた大根を口にしては目を閉じる。お猪口の燗酒をつつっと口に含むように追い掛けてはまた目を閉じる(笑)。 ひろうすには銀杏やささがきの牛蒡や刻んだ昆布などなどを織り込んで、たっぷりと出汁を煮含んで。
おでんの鍋の向こうに見える樽が「赤垣屋」のお酒「名誉冠」。 当然のことのように京都のお酒だね。
ちょっとボディのあるヤツもと「かもロース」。しっとり艶っぽい鴨が噛むほどにじっくりと旨味を湧き出させてくる。 あっさりめに仕立てたソースには、酸味も含んでいて、和芥子ともよく似合う。 飯尾さんのところの富士酢使いだったりするのかな。
お銚子のお代わりをいただいて、「くも子」を所望。雲子とは鱈の白子。 ここでももみじおろしならぬ一味おろしを重用しています。
京都の居酒屋此処に在り、川端二条「赤垣屋」。朗らかに温かい心意気ある応対がなんとも心地いい。 足を運ぶひと達に正に有意な時間を過ごして欲しいとの想いが店の隅々にまで行き渡っているよう。 素敵で粋な赤提灯です。
「赤垣屋」 京都府京都市左京区孫橋町9 [Map] 075-751-1416
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