そのまま真っ直ぐ辿るのが駅へのルートなのだけど、一本右手の筋へと何気なくいつもの遠回り。
そこで目に留める鮮やかな紺碧の暖簾。
引いて仰ぎ見れば、二階の手摺りや屋根の作りも風情な造り。
おぉ、「蓮月庵」はここにあったのかと急に嬉しくなって、早速その暖簾を払いました。
店内も古式床しい味ある情緒。
元々何に使っていたのでしょう、
瓦を載せた屋根を頂いた帳場風のスペースが、
自動販売機の陰に隠れています。
左手の座敷で、ご相席の胡座。
やっぱり温かいものをと「かも南ばん」をお願いしました。
品札に、”鴨肉使用”とわざわざ肩書きしてあるのはなんでかなぁと、
そう考えながら店内をキョロキョロしたら、
頭上に「停止価格」と題した古びた品書きが見つかります。
「更科 五十銭」「月見そば 三十五銭」「御酒小 四十銭」などなど、
昭和初頭のものらしい。
意外や、「カレー南ばん 三十五銭」なんてのもあるね。
ちょっと懐かしい、コカ・コーラの瓶専用の冷蔵庫には、
「ラーメン」「牛どん」なんて品札も。
忙しそうに厨房との間を行き来しているおばちゃんが、
「お待たせねっ」と届けてくれたどんぶり。その飾り気のない湯気に、なんだかほっこり温まる。
脂がちょうどいい感じに滲んだ汁を啜れば、
すーっとしながらじわじわと旨味が届くようで、
さらにほっこり。
その汁にひたりと馴染みながら、
しゃくっとした歯応えと粉の風味を出しゃばらずに主張する蕎麦。ずず、ずず、ずずずず。
う~ん、ゆるゆると温まる。
どんぶりの底まで飲み干してのご馳走さま。
昭和元年創業といわれる「蓮月庵」。
門前からちょっと外れた立地が奥床しい。門前の通りには触手の動くお店があまりないなぁと、
そんな風に思っていたのだけれど、
ここはお詣りの定番になりそうです。
二階の広間にも上がってみたいなぁ。
「蓮月庵」
大田区池上2-20-11 [Map] 03-3755-4170
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