その間の一日には、同じアドリア海の北縁の有名観光地を訪ねようと、朝のグラド駅へと向かいました。
駅の隅にあるたっぷり使い込まれたカフェで珈琲を啜ってから乗り込んだ列車は長躯、西へと走ります。
どんよりと低く垂れ込めた雲の下の視界が開けたぞと、
その行く先に視線を送る。少し霞んだフィルターの向こうにヴェネツィアの島影が見えてきました。
終着駅Venezia Santa Luciaのホームに降り立って、
ここまで運んでくれた列車の顔を拝み直します。並んだホームには、それぞれに顔の異なる列車たちが、
次の発車を待っていました。
カナル・グランデCanal Grandeを渡って、
カナル・グランデに円く囲まれたサン・ポーロ地区へ。ゴンドラを浮かべた運河は小さな橋を潜り、
川岸ぎりぎりまでに迫る建物たちの間を縫うように繋がっています。
どこをどう通ったのか(笑)、気がついたら、
Mercato del Pesce al Minutoと煉瓦の壁に示す建物の前にいました。東京で云えばさしずめ、築地!となるであろう魚市場です。
朝の商いは疾うに終えているようでひと気も荷もほとんどないけれど、
魚介の残り香は辺りに漂っていました。
ヴェネツィアでも特に有名な橋、Rialto Bridgeは、
残念ながら只今、鋭意改装中。橋の半分は、外観をプリントしたシートに覆われていました。
橋の階段を上っていたらちょうど、
棺を運ぶ舟に出会したり。そうかと思えば、
ウエディングドレスにタキシード姿のカップルが、
橋の上で寄り添う姿を認めたり。
何故か、アニメ「ルパン三世」ファーストTVシリーズの第11話、
「7番目の橋が落ちるとき」を思い出したりなんかしながら、
辿り着いたのが、サン・マルコ広場Piazza San Marco。聳り立つ鐘楼を見上げ、
サン・マルコ寺院やドゥカーレ宮殿が居並ぶ広場の壮観に、
しばし息を吞む。
ドゥカーレ宮殿に入り込んで、
豪奢な天井の装飾や巨大な絵画の迫力の中に佇んでみます。
裁判所として、きっと恣意的な断罪が、
なされてきたのであろうことを想像しつつ、
運河を隔てた対岸の牢獄跡とを結ぶため息橋から、
カナル・グランデの明るさ賑やかさを眺める。牢獄は勿論、武骨な鉄格子で窓という窓が閉じられている。
内と外とのコントラストが余りに強くて、
当時ここに閉じ込められたひと達の哀歌が、
すっと流れてきたような気がしたりしました。
サン・マルコ広場を訪ねる前にお邪魔していたのが、
サンタ・マリーナ川とファーヴァ川、ピオンボ川に囲まれたエリア。
ピオンボ川に架かる小さな橋を渡り、
その先の狭い路地を往く。その路地の突き当たりにあるOSTERIAが「AL PORTEGO」だ。
硝子越しに眺める惣菜のあれこれに目を奪われつつ、
幸運にも空いていたテーブルに滑り込む。剥き出しの梁には、幾つもの鍋が吊下げられています。
気がつけばなかなかの距離を歩いていた所為か、
麦酒がとっても旨いです(笑)。
改めて硝子ケースを覗いたりなんかして、
選んだアンティパストの一緒盛り。小烏賊のグリルや帆立のパン粉焼き、
烏賊墨の和え物、魚介エキスの詰まったライスコロッケ等々、
海辺の街らしいお惣菜たちが素直に嬉しい。
続いて選んだ相方のパスタは、ムール貝も沢山のボンゴレ。潰さずに和えたトマトもいい役割を果たしていそうで、旨そうだ。
方や、CalamarettiとAsparagiのタリオリーニ。Calamarettiは、烏賊のことであるようだけれど、
タリオリーニに和え込まれているのは、
小さな小さな烏賊たちだ。
小さなその身が運ぶ存外の旨味と仄かな肝の苦味がいい。
玉子たっぷりの幅広タリオリーニの噛み応えもよろしく、
ぺろっと平らげてしまうひと皿でありました。
ヴェネツィアの小さな橋の向こうの狭い路地の突き当たりに、
OSTERIA「AL PORTEGO」はある。偶々隣のテーブルに日本人らしきカップルがいらしたけれど、
どちらかというと当地のひと達で賑うお店であるらしい。
“PORTEGO”は、ヴェネツィア特有建築で部屋部屋を繋ぐ、
メインホールというか、センターホールというか、コアというか、
そんな部屋のことをそう呼んだりするらしい。
どこからともなく人々が集う場所。
そんな意味合いが籠められているのかもしれません。
「AL PORTEGO」
Castello San Lio, 6014 30122 Venezia, Italia [Map]
+39 041 522 9038