Curry&Dining「M’s Kitchen」でダールに山椒にタイ風カレー自由な気風が愉し美味し

酷い渋滞を生む開かずの踏切に抜本的な対策を図り、踏切による事故を解消し、駅周辺をエリア分断から解放する、等々。
鉄道を地下化もしくは高架化するのは、そんな目的の元、多大な金と時間を費やして事業化されている。
高架下や地下線路上を有効活用し、利益を生むものとする、なーんて目的もそこにあるのでしょう。

京王線の調布駅が地下化されたのは、2012年08月のことという。
一昨年だったか、調布駅にとっても久し振りに降り立った時のこと。
真新しいホームから地上に上がってびっくり。
地上から線路がなくっているのはまだしも、
嘗ての駅舎がなくなった辺りがぽっかりと広場になっていて、
周囲の建物もどっちを向いていいのか判らないような、
どことなく所在なさ気な風情で、落ち着かない(笑)。

地上駅舎の代わりに建てられたのが、トリエ京王調布。
地階の駅東口からA館1階に上がり、南側に出て徒歩1分。
図らずも駅前立地になってしまった駐輪場の向かいにあるのが、
Curry & Dining「M’s Kitchen」だ。

GLから少し下がったレベルに小さなテラスがあり、
ステンレスの丸テーブルがふたつ用意されている。 時節柄、暑くも寒くもない陽光の日には特等席になりましょう。

「M’s Kitchen」のランチメニューは、
「シンプルセット」「ランチセット」に「タンドリーセット」が基本線。 ちょいと贅沢に、タンドリーセットBを所望しましょう。

ライスの小山を囲む5品の付け合わせがまず嬉しい。
状況が許すのなら、麦酒をいただいてしまいたい。 じっくりと丹念に火を入れた様子のタンドリーの、
程よいスパイシーさも麦酒を誘う。
でも飲めない(笑)。

「M’s Kitchen」のカレーは、定番7種に週替わり1種。
この日「タンドリーセット」で選んだのは、ダールカレー。
ヒヨコ豆やツール豆を煮込んてほろっとさせたヤツ。
甘さを感じさせるような優しいカレーだ。

メニューの隅に”当店のこだわり”コーナーがあって、
インド風カレーと欧風カレーのそれぞれの長所を取り入れた、
スパイシーだけどコクがあってまろやかなカレーソース。
野菜の皮やヘタを煮込んでつくる、
野菜の旨味が溶け出し、栄養価の高いスープ、
“ベジブロス”をソースのベースに使用し、
和風調味料や飴色に揚げた玉葱、フレッシュトマトを加え、
4、5時間煮込んで、ひと晩寝かせて美味しさを引き出している。
とある。
なるほど、M’sのカレーは、ハイブリッドなカレーなのだ。

ふたたび訪れたおひる時。
テラスは雨のためクローズしていて、
そのテラスを眼前にするカウンター席の一隅へ。
過日と同じ、サラダと5品、ライスとナンの載る丸皿。
二度目なのに勝手知ったる、みたいな気分になる(笑)。

ポットのカレーはと云えば、キーマカレー。
仄かに香るは、ネパール産の山椒であるという。 甘さを含むナンとの相性、バッチリ。
ナンのお代わりをお願いしましょう。

別のおひる時には、ちょっと風変わりな「山椒カレー」。
シェフ特製麻婆ソースをベースにした新発想のカレーです!
とメニューにはある。 ネパール産の山椒がヒリっとした辛味と青い香りを運んでくる。
アイスのチャイで、ヒリっを優しく宥めましょう。

またまた別のおひる時には、
週替わりメニューから「タイ風グリーンカレー」。 辛さほどよく、青唐辛子の風味が存分に楽しめる。
そうそうタンドリーグリルの三点盛りのひとつ、
フィッシュティッカもまた自分でも作れないかなと思う、
定番にしたい佳品であります。

新装の調布駅から徒歩1分の場所に、
Curry&Dining「M’s Kitchen」はある。 多国籍にも思うメンバーの三人の頭文字がともに”M”だから、
「M’s」と名付けたという。
“エムズ”ではなくて”エムス”キッチンと読ませるらしい。
例えば、南インドのカレー専科というような、
現地本格志向のお店にも興味を唆られるけれど、
インドカレーと欧風カレーのハイブリッドにして、
タイ風や中華エッセンスをも織り交ぜる自由な気風もまた、
愉しからずや美味しからずや、なのであります。

「M’s Kitchen」
調布市布田4-2-7 ホテルノービス調布1階 [Map] 042-444-2185
https://www.facebook.com/mskitchen.chofu/

column/03843

かやば町「鳥徳」で大人気鳥鍋御前特製弁当きじ焼き重飴色の階段昭和の風情がまた

茅場町で焼鳥の店と云えばやっぱり、鳥「宮川」のことをまず思い浮かべる
ランチタイムの行列は今もさくら通りの定番の光景となっています。
宵の口の一席に滑り込むのもなかなか容易ならざるのが、人気の「宮川」ゆえの常態と云えましょう。
そんな茅場町の焼鳥店事情にあって、どっこい確固としたファンを抱えているのが、すずらん通り沿いの老舗「鳥徳」であります。

街並みの光景にすっかり溶け込みつつも、
どっしりした存在感を示す「鳥徳」の建物。 石張りの腰壁に木枠のショーケース。
何代目かは分からないけれど、
入口の横格子の建具も何気に味がある。

一階奥のカウンターに陣取れば、
硝子越しに焼き台の様子が窺える。 おひる時のお品書きに裏表には、14、15種類の品が並ぶ。
特製弁当ABC三種から、お重が五種類。
土鍋を突く定食が三種類に鳥のカツライス上と並。
そして、それら鳥料理たちに鰻重の上と並が織り込まれています。

冬場の「鳥徳」の人気筋は、なんと云っても「鳥鍋御飯」。 ちんちんに熱せられた土鍋にぐつぐつと滾る汁。
もうもうと上がる湯気。
溶き玉子と濃いめのツユの沁みたモモやレバに、
掻き込むようにご飯を貪ること請け合いであります。

三種ある特製弁当で売れ筋なのが「鳥徳特製A弁当」だ。 お重にきじ肉焼き(鳥もも薄切り)とつくねが半分半分。

きじ肉焼きをじっくり堪能したいという貴兄には、
「きじ焼き重」という選択肢もある。 少し焦げた醤油ダレが鼻腔を擽る。
あそこまでの妖艶な柔らかさはないけれど、ふと、
旭川は独酌「三四郎」の「新子焼き」を思い浮かべたりいたします。

鳥のカツをお重でいただきたいと思ふ淑女には、
シンプルなる「かつ重」をお薦めする。 ありそでなさそな鳥のかつの玉子とじのお重。
あれ?という間にするんといただけてしまいます。

玉子とじと云えば他にも「つくね玉子とじ重」なんて手もある。
自由に攪拌された玉子の中からひょっこりとつくねが顔を出す。
鳥やですもの勿論、「親子重」の用意もございます。
そうね、最後の御飯ひと粒まで、
いじましく重箱の隅を突きましょう(笑)。

宴会ニーズにもしっかりと応えてきた「鳥徳」には、
その二階に幾間もある大容量の座敷がある。
飴色の階段を昇れば、久し振りに実家に帰ってきたような、
ふとそんな気分にもなって思わず大の字に寝そべりたくなる。
座卓に胡坐を掻いて「親子鍋」。
なんてのも、いいでしょ(笑)。

昭和下町民家の味処、茅場町に「鳥徳」あり。 Webページによると「鳥徳」の歴史は、明治の終わり、1930年代に、
富山の大名商人だった徳太郎が焼鳥屋を始めたことにまで遡る。
「鳥徳」の”徳”の字は、徳太郎の”徳”に由来するという。

創業時は1間間口の広さ8畳ほどの小さな店舗であったらしい。 何気に凄いのは、その創業時の入口は、今の店舗入口であるということ。
当然、建具は補修・交換を繰り返してきたのだろうけれど、
入口の位置や間口を変えないまま増改築を重ねて、
大宴会が出来るような規模に発展させてきたということになる。

そんな飴色の風情が代え難き「鳥徳」が、
建物老朽化による建て替えのため、
この6月末をもって一時閉店してしまった。
確かに二階の床が軋んで抜けそうだったものなぁと思いつつ、
なんだか寂しい気持ちに駆られるの自分だけではなさそうです。
閉店・閉業でないのがなによりの救いですね。

「鳥徳」
中央区日本橋茅場町2-5-6{Map}03-3661-0962
http://www.toritoku.com/
http://kayabachotoritoku.com/

column/03842

OSTERIA ENOTECA「ダ・サスィーノ」で弘前城の桜と自ら育む食材自家製ワイン

もう随分と前のことになったけれど、takapuのお陰で足を向けることが出来た青森という土地。
雪の青森市街を巡り、煮干し中華そば店を辿り、夜は豊盃が迎える酒場へ。
八戸では、銭湯の朝湯に浸かり、朝市に潜入したりなんかして。
そして、太平洋側の南部とも北海道と本州を繋ぐ港町であった青森ともまた違う雰囲気を持つ弘前。
弘前と云えば、「しまや」の女将さんの佇まいが真っ先に思い浮かぶ。
そんな弘前へは、桜の時季にもいつか訪ねたいとずっと考えていました。

例年の開花時期よりも早いタイミングで、
旅の予定を組んでしまう勇み足。
花咲く前の弘前城の散策もきっと悪くないさとそう開き直っていたら、
史上一番を争うような早い開花に巡り合う。
勇み足が功を奏して、満開の弘前城を訪ねることが出来ました。 さくら祭りも”準”さくら祭りと呼ぶ前倒し。
城内での飲酒や食べ歩きが禁じられているのは残念ながら、
岩木山を望むお濠周りに連なる桜やアーチ状に迫る桜のトンネル、
内濠の工事のために移設されている天守周りのしだれ桜。
はたまた、れんが倉庫美術館前の色合いの違う桜などなど。
気の早い弘前の桜の満開を存分に堪能したのでありました。

早めの夕方から「しまや」の女将さんにお久し振りのご挨拶。
その翌日には、五所川原まで足を伸ばして立佞武多の館。
久々に津軽鉄道に乗り込んで、太宰治疎開の家から斜陽館を巡る。
太宰治の生家であり実家あるところの斜陽館よりも、
実家の離れを移築した、家族ともども疎開の時季を過ごし、
太宰晩年の作品群の書斎となった邸宅の方が趣がある。
思わず文庫本「走れメロス」を購入したりして(笑)。

五能線で戻った弘前の夕刻に訪れたのが、
本町の弘前大学医学部の通りを挟んで向かい側の路地。
薄暗い径の左手にぼんやりと浮かぶサインの文字が示すは、
「OSTERIA ENOTECA DA SASINO(ダ・サスィーノ)」の在り処だ。

予約で満席との店頭の表示を横目に、奥のテーブルへとご案内。
メニューの片扉には、レストランの心意気を示す文章がある。
それは、「サスィーノの仕込みは、農園での種植えから始まります。」
の一文からはじまっています。

土を耕し、種を植え、育て、収穫する。
烏骨鶏の世話をして、卵を採る。
自家製の生ハムを仕込み、熟成させる。
近隣牧場のミルクから自家製チーズを作る。
手入れを続けていた葡萄を収穫し、ワインを醸造する。
嗚呼、素晴らしい。
なかなか真似の出来ることでは、ない。

文章の後段では、カンパニリズモCampanilismoに言及していて、
サスィーノでは、食のカンパリニズモを弘前で表現してまいりました、
と綴る。
いい意味での偏狭的な弘前に対する郷土愛が発露する。
きっとそんなレストランなのでしょう。

あら美味しい、と思わず呟く、
グラスのスプマンテをいただきつつ、
恭しくひとくちの前菜をお迎えします。

新玉葱のピューレに載せた青森サーモンの40℃の燻製。
小さいくせして滋味深きサーモンから一瞬の薫香が追い掛ける。 地蛤、雲丹、鶏出汁で炊いた筍の冷製は、
蛤の出汁がジュレに利いている。
春の山菜のひと品は、パイ生地の上にパルミジャーノクリーム。
たらの芽のフリット、自家菜園のむかご、食用花、 雪菜の菜花のマリネ、法蓮草のパウダーが彩る。

迎えたグラスは、自家栽培の葡萄による自家醸造の白、
「Hirosaki Malvasia 2019」。 すーっと喉に入りつつ、複雑な滋味がする。
いやー、素晴らしい!
日本でも美味しいワインが出来るんだと改めて思うところ。
イタリア原産の葡萄マルヴァジアを工夫しながら栽培し、
ワインの販売まで行っているのは、こちらだけではあるまいか。

青森県産鴨の胸肉の生ハムに、
ピスタチオ、ブラックペッパーを含ませた、
ボローニャソーセージ、モルタデッラ。 十和田の奥入瀬ガーリックポークの三品を
辛味のあるルッコラセルパチカが彩る。
周囲を飾るのは、渋柿のドライフルーツあんぽ柿だ。

真鯛のソテーでは、時に淡泊に過ぎる真鯛が、
ふっくらとした甘さ香ばしさでぐっと迫る。 2018年のHIROSAKI BIANCOは、
マルヴァジアにシャルドネをブレンド。
ソーヴィニヨン・ブランなぞも少々織り込んで、
爽やかに仕上げたヤツ。
爽やかだけど、爽やかなだけではない。
うん、これもいい(笑)。

前菜のラストは、ブリオッシュに載せたフォアグラムース。 蕗の薹のピューレのソースで軽やかにいただくってのが、
このお皿の趣向であります。

そして、パスタその1は、カルボナーラ。 パルミジャーノに黒胡椒、そこへ溶いた卵黄を回しかける。
さらには、黒トリュフをスライスして散らす。
自ら混ぜ合わせれば、
ちんちんに熱くしたお皿の熱で卵黄に少しづつ火が入ってゆく。
トリュフが薫る。
なはは、旨い旨い。

パスタその2は、鴨のリゾット。 鴨の腿肉のコンフィとで炊いており、
ワインレッドに染めているのは、そう、ビーツだ。

メインに合わせて届けてもらったのが、SASINO ROSSO 2016。 メルローとバルデッラの赤。
同様のデザインのエチケットで、自家栽培自家醸造であることが判る。
芯がしっかりしつつ柔らかだ。

そして、メインは、七戸で育てられているという「健育牛」。
火入ればっちりのサーロインのローストは勿論、
自家製ワインのソースでいただきます。 牛そのものが香り高く旨味がしっかりしているのは、
玉葱などでマリネして、低温湯煎で浸透させているかららしい。
うんうん、美味しいぞ。

デザートは、林檎のスープに浮かべたアーモンドのブランマンジェ。
杏仁のリキュール、アマレットでアーモンド風味を添えている。
月桂樹のジェラートを載せ、ミルクチップが突き刺さる。 黒い円盤のプレートには、
お手製のマカロンなぞのプティフール、ミニャルディーズ。
それを自家菜園のミントティーで摘んで、大団円であります。

弘前の横丁に知る人ぞ知るイタリアン、
OSTERIA ENOTECA「DA SASINO(ダ・サスィーノ)」がある。 店で提供する食材の一部を自ら栽培し、
さらには葡萄を育て、自らワインを醸造する。
素材を育む一方で、調理方法の工夫にも怠りがない。
相方にも、全部美味しかった!をいただきました(笑)。

OSTERIA ENOTECA DA SASINO(ダ・サスィーノ)
青森県弘前市本町56-8[Map]0172-33-8299
http://dasasino.com/

column/03841

四季酒肴求心「金田」で皮剥薄造り白海老喜知次煮付菊正宗燗酒自由が丘の名酒場

色々なチャネルで発表される”住みたい街ランキング”。
一時はそのトップ5に入っていた自由が丘は、最近はあまりその話題で注目されることはなくなりました。
お洒落さを特に強く感じたことはなかったけれど、周囲に落ち着いた住宅地を控えつつちょいと買い物したり食べ歩いたりするのに程よいコンパクトさのある街として、沿線住民だった頃にはお世話になった。
ごちゃっとしてどこか下町チックにも思う駅周辺もお馴染みであります。

高架下に直接出る北口改札からすぐ。
スタバと天ぷら「天一」の間を折れ入れば、
ひるから呑めちゃう鰻処「ほさかや」のある、美観街なる裏通り。
通りの名前とは裏腹に、どこか雑然としてるのも魅力の横丁(笑)。
その短い裏通りのちょうど真ん中辺りにあるのが、ご存じ「金田」だ。

凸部がふた山あるWコの字のカウンターの一辺に落ち着き、
厨房の下がり壁を見上げれば、木札の品書きが目に留まる。 厨房に向かって左手の壁には、これまたご存じ、
“金田酒学校”とも称される「金田」の”生徒たち”により、
80周年を祝い贈られたプレートが掲げられている。

瓶の麦酒で喉を潤しつつ、
ふたつ折りされたその日のお品書きを眺めるのも愉しいひと時。 残念ながら既にヤマになってしまったメニューには、
赤鉛筆で打ち消し線が引かれています。

あちこちに目移りして気も漫ろになりつつも、
冬場の品書きで惹かれるメニューの筆頭が「活〆カワハギ薄造り」。 肝を薬味とともに薄造りの透明な身に包み、食む。
うんうん、やっぱり河豚より美味い(笑)。

「白エビ」と云えば、富山からの贈り物。
殻を除き集めた宝物のような甘みを少しづつ堪能しましょう。 「菊正宗」の燗のお銚子を傾けていたところに、
「釣りキンキの煮付け」が届く。
あっさりめに煮付けた身の甘さにほっこりだ。

燗酒が似合う寒い日には「鳥鍋」もいい。 熱々に蒸し上げられた磁器の器の蓋を外せばそれは「かぶら蒸し」。
おろした蕪がふっくらとした上品な滋味で迫ります。

蕨白和え、行者大蒜、蕗味噌、独活酢味噌にこごみ胡麻。
春の気配を感じてきたならば、「山菜盛り合わせ」がいい。 タラの芽の天ぷらだって、負けじと春の息吹なを感じさせる。
そうそう、白出汁を用いたような薄味ゆえか、
「若竹煮」の柔らかな筍や活き活きとした若芽が妙に旨い。

揚げ物にして煮物のようにも思えるのが「新ジャガイモ唐揚げ」。 しっかりと煮含めたのであろう出汁の旨みが、
素揚げに閉じ込めたじゃが芋の魅力を倍加させて、そっと迫る。

塩梅のいい脂ののりと繊細な皮目の「太刀魚塩焼き」と「菊正宗」燗酒。 透明なとろみあんに浮かぶは「里いも満月むし」。
里芋の甘みを真っ直ぐ味わえて、成る程、美味しい。

お造りの定番のひとつと思うのが、「活〆関アジさしみ」。
一段違う濃いぃ旨味を堪能するに相応しい身の厚みが嬉しい。 定番と云えば、地味にして美味な「オカラ」にも、
隠れたファンが少なからずおられるものと存じます。

自由が丘の名酒場と聞けばそれはきっと、
四季酒肴求心「金田」のこと。 お品書きに用意される趣向たちは、
そんじょそこらの居酒屋のそれとは仕立ても品格も違う。
それを目当てに集まるのは、それなりに年嵩なご同輩。
一度、話しているうちに声が大きくなったようで、
そっと注意を促す所作を得たことがある。
堅苦しいことは決してないけれど、
かといって自由奔放な若者はきっと居心地がよくないと思う。
そして自ずと名酒場の一端を担う客層が選ばれていくのですね。

「金田」
目黒区自由が丘1-11-4[Map]03-3717-7352

column/03840

鮨「石島」本店で柚子香るづけ霞ヶ浦の白魚蛍烏賊のスチーム桜の頃のカウンター

午後から振替の休暇をとった午前中。
ふと、鮨が食べたいと思い付くことがあっても不思議は、ない(笑)。
京橋方面へ足を向けて、「京すし」か「目羅」へという手もあるなと腕組み思案。
頭の中のエリアをもう少し広げてみると、京橋公園のある光景が浮かんできた。
そうだ、正午過ぎ辺りにあの店を訪ねるのが妙案だ。

脳裏に浮かんでいたのは、
この木立越しに佇む鮨「石島」の建物。 看板建築よろしく、緑青の噴いた銅板の外壁がいい。
暖簾の上の軒下で睨みをきかせているのは、
鍾馗さんではなく、鬼瓦の類のようです。

梁とスラブとの空間を懐にして、
天井板の代わりに煤竹を配した意匠が目に留まる。 10席ほどのL字のカウンターには、
ひとときを思い思いに愉しむ顔が並んでいます。

淡路の真鯛に紀州勝浦の鮪。 大き過ぎず小さ過ぎず。
スマートなフォルムに小さく頷いたりなんかする。

枕崎の鰹に柚子の香るづけ。 赤酢の舎利は好みの仕立て。
鮪のづけに過ぎない柚子の香りがよく似合う。
極薄い白板昆布に透けた〆鯖が妖艶だ。

霞ヶ浦の白魚に函館の雲丹。 芝海老の玉子焼きを挟んで穴子、という流れも悪くない。

もう少し摘みたいと思えば、この時季恒例の蛍烏賊は、
富山滑川のスチーム仕立て。
フレッシュでいてふっくらとして、うん旨い。 魴鮄に続いて最後にいただいたのが、貝割れ大根。
軽い漬物になっていて、シャクっとした歯触りが面白い。
ああ、芽葱の握りも食べたいな(笑)。

「石島」本店のネタ箱は、カウンター埋込み方式。
客席からの目線に近いところにあり、
かつ古の硝子ケースのように視線を妨げることもない。 開け放った入口の向こうからも、春の空気が感じられます。

ちょうど一年ほど前の思い出を振り返ってみる。 小豆羽太の昆布〆に天草の小肌。

四丁づけにしたのも鯖ではなかったか。 黒い細帯が目印の細魚に黒い帯の玉子焼き。

銀座の外れ、京橋公園のお向かいに鮨「石島」本店はある。 「LA BETTOLA da Ochiai」の近所と云えば、頷く人も多いはず。
新富町のお店「石島」には、
開店早々に何度かお邪魔したけれど、
最近ご無沙汰しています。
でも、休暇の午後にはまた、
こちら本店のカウンターにお邪魔してしまいそうな、
そんな予感がする。
特に春にここを思い出すのはもしかしたら、
ビストロ「ポンデュガール」の前にある、
新富橋の桜の木の所為なのかもしれません。

「石島」本店
東京都中央区銀座1-24-3[Map]03-6228-6539
http://www.sushi-ishijima.com/

column/03839

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