「蒲焼」タグアーカイブ

うなぎ「川勢」でひと通り串焼八幡焼きも焼ひれ焼ばら焼れば焼きも刺えり焼はす焼

新宿西口の思い出横丁に新宿ゴールデン街、吉祥寺駅前のハモニカ横丁などなど。
今も戦後闇市の気配を残す横丁が実は、大好物なのであります(笑)。
戦後日本最大のヤミ市とも云われる「新生マーケット」があった新橋駅西側の界隈は、今のニュー新橋ビルの辺り。
ビルとなった今もなお、どこかその残滓が滲んでいるような気がしたりします。

そんなヤミ市由来の、
所謂新興マーケットの風情を感じさせる一角が、
ロータリーに面した荻窪駅の北口にもある。

その区画の中のアーケードのひとつ、
荻窪北口駅前通商店街の黄色いアーチを潜る。中華そば「丸福」の暖簾を横目に見乍ら進むと見えてくるのが、
簾を横に捲いて囲ったようなファサードのお店。
軒下には藍の暖簾。
灯りの燈ったスタンド看板には、秋田銘酒大関。
蒲焼・串焼「川勢」だ。

カウンターに沿って止まり木が並ぶ。
二階にも客席があるようなのだけれど、
上がったことはない。 串からは丁寧に繰り返し用いている様子が伝わり、
それも職人仕事の一端に思えてちょっと嬉しくなる。

使い込まれた焼き台に二本の角棒が横に渡され、
その下に紅く熾された炭たちが横たわる。角棒の間の距離や高さや傾きが自在になるようにして、
串の種類・大きさに合わせて、炭との距離なんかを加減する。
きっとそんな工夫が施されている。

壁には、鰻の謂わば解剖図。鰻の部位や肝の呼称なんかが解説されている。
余すところなくいただくんだという気構えが滲んでくるようだ。

ほとんどのひとがそうするであろう便利な註文方法は、
ひと通り!が合言葉。韮を巻いたのがひれ焼。
牛蒡を軸にする串、八幡巻を巻いたのは、
皮目を残した片身でしょうか。
串焼、きも焼、ばら焼、れば焼で串物ひと通り。
部位ごとに勿論違う歯触り・噛み応え。
焼鳥とはまた違う醍醐味がここにあります。

両関の雫を舐めながら、
お隣さんのご註文に乗っかって。運が良ければ出会えるのが、きも刺し。
さっと湯引きした様子のキモと解剖図と照らし合わせる(笑)。
胃に腸に腎臓、浮袋あたりでありましょうか。

エリ巻きは、その名の通り、鰻の頭の首の廻りを巻いた串。
硬い中骨を抜いて開き、串に巻いて塩焼きしたもの。
いやはやお安めの酒がよく似合う(笑)。はす焼きはと云えば、解剖図にも記述がない!
首の下のあたりの部位なのでしょうか。
(追記)と、そんな疑問を呈していましたら、
ひれ焼きの韮の代わりに蓮根を用いるのがはす焼きです、
とフォローいただきました。

ここまできたら蒲焼もいただきたと所望する。蒲焼を蒸し上げるのに用いられる釜が素晴らしい。
よくぞそこまで使い込んでいるぞと感心頻りであります。

そして、うな丼の麗しき姿よ。炭火に炙ることで纏った極く薄い膜が、
ふっくらとしたその身を覆う。
噛めば旨味を炸裂させつつも、
だらしなく身が崩れることはない。
嗚呼、いいね、美味しいね。

荻窪駅北口の新興マーケットのアーケードに、
鰻の串焼・蒲焼の「川勢」がある。また、夏の夕べ辺りにふらっと寄って、
開けっ放しの入口近くの止まり木に佇んで、
ひと通りに麦酒!と小さく叫びたい(笑)。

「川勢」
杉並区上荻1-6-11 [Map] 03-3392-1177

column/03774