「会津」タグアーカイブ

石臼挽き手打「蕎楽亭」で芹お浸し稚鮎天婦羅煮穴子馬刺し鴨ざるお濠端の桜と

都内に桜の名所数あれど。
例年仲間で集う葛西臨海公園では、桜並木の下に車座になって乾杯し、時々桜の花弁越しに背景の観覧車を見上げたり。
身近なところでは、茅場町の通称桜通りを往復してからやき鳥「宮川」の行列に混じったり
薄いピンクに彩られた隅田川沿いの新川公園を散策してから土手に腰掛けて、行き交う遊覧船を眺めたり。

他にふとその様子を眺めに行きたくなる場所のひとつに、
飯田橋のお濠端がある。
神楽坂下信号から外堀通り沿いに四谷方向へ。
舗道際の桜並木で、風に揺れる桜の花を一時愛でる。お濠を見下ろすと、
水上カフェ・レストラン「CANAL CAFE」の賑わいが覗く。
桜の見栄えとしてはなんのことはないのだけれど、
どうも気になるスポットなのだ。

気になる理由が実は神楽坂の坂の上辺りとの連関にある。
それは神楽坂を上がり、
見番横丁へと左に折れたその先にある蕎麦の店。店先では、薄緑色を帯びた蕎麦の実をゆっくりと挽く、
一種の石臼製粉機と思しき道具が稼動しています。

カウンターの真ん中あたりに案内いただいた春には、
味のある筆の文字の品書きの中に「せりのお浸し」を見付ける。細長く掻いた削り節を戴いた芹には勿論根っこも添えてある。
浸した出汁の塩梅や佳く、春の香気が噛むほどに小さく弾ける。
口開きの酒は例えば、
埼玉は上尾の酒蔵による本醸造辛口「鬼若」だ。

目移り必至の「蕎楽亭」の蕎麦前用品書きの、
核のひとつが天麩羅のあれこれ。
例えば、歯触りも愉しき「白魚」だったり。春の定番「ふきのとう」は、
期待通りのほんのりした苦味がいい。

厨房に向かって右手奥にある水槽に目線を投げれば、
いるいる、稚鮎くんたちがちょっと所在なげに泳いでる。それが暫し待っていれば今度は、
卓上の敷き紙の上で泳ぐ姿を拝める。
此方もやっぱり澄んだ苦味、腸の苦味が実にいい。
酒が進んでしまうではありませんか(笑)。

天麩羅もきっと美味しい穴子は例えば、
「煮穴子」という一手に賛同してみる。このために焼いたかのような両端半円の長皿に、
ちょうど良く収まった煮穴子の姿を俯瞰してまず愛でる。
品のよい身の厚さの穴子からは何処か繊細な甘さが届く。
うん、美味しい。

「煮穴子」があれば穴子の「白焼き」も勿論ある。焼き網に炙った表面や芳ばしく、
搾った檸檬やおろし山葵がよく似合う。

あいかわらず品書きの上を彷徨う目線を留めたのは、
例えば「会津の馬刺し」。
モモ、ヒレ、レバーに盛り合わせとある。
調味された味噌をちょんと載せていだけば、
うんうんと思わず何度も頷いてしまう。そうそう、品書きには会津由来の品が幾つもあって、
例えば、会津の郷土料理たる「こづゆ」を始め、
会津の茶豆だったり、会津地鶏の塩焼きなどが鏤められています。

お酒のラインナップも福島ものがほとんどで、
例えば純米「金水晶」とか純米吟醸「泉川」、
例えば特別純米生原酒「飛露喜」、純米吟醸「豊国」などなど。選んだお猪口に、カタチ色々な片口からそれらのお酒を注ぎ、
例えば「出汁巻き玉子」を端からつまんでを繰り返します。

そうこうしている間には何度も、
打ち台で打った蕎麦がアルミのパッドから計量器の上に載せられる。そして、所定の量が湯殿に投入されてが繰り返されています。

冷たいもの、温かいものそれぞれ20品ほどがずらっと並ぶ、
そんな品書きから選ぶは、例えば「鴨ざる」。素朴な筈の蕎麦そのものから確かな旨味を覚えるのは何故でしょう。
それは鴨肉からの出汁や脂をも湛えた汁だけの所為ではない気がする。
汁の中からツクネを見付けた瞬間もまた嬉しからずや(笑)。

蕎麦の註文が繰り返されるが故に、
届けられた蕎麦湯はエキス豊かなものになる。蕎麦湯が旨い蕎麦屋の蕎麦は旨いって、
思えば至極当然のことでありますね。

春先までの季節のおすすめのひとつに「牡蠣そば」がある。小長井産の生牡蠣を板海苔の筏に浮かべた温かい蕎麦。
さっと甘汁で煮含めた半生の牡蠣が旨い。
そして気が付けば、牡蠣の風味を帯びた汁を完飲してしまっています。

ふとちょっとした悪戯心と天邪鬼が顔を出した日には、
蕎麦ではなくうどんの「肉ざる」を註文してみたりする。つるんと喉越しのよい饂飩に具沢山の肉汁。
正調派武蔵野うどん喰いのひとりとしては、
どうしても斜に構えてしまうものの(笑)、
そんじょそこらのうどん専門店にも引けをとらない、
何処か凛としたおうどんであります。

神楽坂は見番横丁の奥に石臼挽き手打「蕎楽亭」はある。横丁の名もまた然り。
花街情緒の残り香漂う神楽坂の裏通りという、
そんな立地をよくぞ探し当てたものだとそう思う。
大将を中心に回る厨房の有機的な様子がよい。
春先のみならず、季節を変えて訪ねたい蕎麦料理店であります。

「蕎楽亭」
新宿区神楽坂3-6 神楽坂館1F [Map] 03-3269-3233
http://www.kyourakutei.com/

column/03790