「きんぴら」タグアーカイブ

元祖の味「田舎っぺ」北本店で肉葱饂飩茄子饂飩元祖の名に寄り添う武蔵野うどん店

埼玉県の中東部に位置する北本市。
それまで所縁のひとつもなかったので、此方のお店に足を向けたのがきっと、北本との初めての縁だったのでありましょう。
他に目的地が思い浮かばないので恐らく、鴻巣の運転免許センターに国際免許を取得しに出向いた流れだったではないかと思います。

免許センターから少し南下した国道17号沿い。
大型トラックも行き交う街道沿いに並べられた幟の向こうに、
「田舎っぺ」の文字が見えてきました。看板には「名物きのこ汁つけうどん 発祥の店」とあり、
平屋建ての店舗の真ん中には、
「元祖の味」と示す白暖簾が掲げられています。

外観に思うのと違った広々とした印象の木造りの店内。
天井高く、凝った意匠の造作もみられます。カウンターの左隅の丸太椅子の上をよくみると、
サンプルらしきうどん笊が載っている。
普通盛りと大盛りあたりのボリュームを直観できるように、
そう配慮したものなのだろうと推測します。

「目に言う」と題されたお品書きと一緒に
“全国七大うどんに選ばれた”ことへの感謝が綴られている。ここで云う”七大うどん”とは、
稲庭うどん(秋田)、水沢うどん(群馬)、みそ煮込みうどん(愛知)に、
伊勢うどん(三重)、讃岐うどん(香川)、五島うどん(長崎)、
そして武蔵野うどん(埼玉・東京)だ。

“名物”と肩書のある「きんぴら」を註文んでみたら、
割と大胆な太さに切られた牛蒡のそれがやってきた。ピリ辛にして歯応えの心地いいきんぴら。
そして、「ほうれん草」は、
武蔵野うどんの一部地域では”糧”とも呼ばれる定番のシンプル総菜だ。

紛うことなき武蔵野うどんの店であろう「田舎っぺ」ではあるけれど、 “肉汁”ではなく「肉ねぎうどん」としているところが面白い。してその実態は、正真正銘の”肉汁”うどんだ。

しなやかにして力強く量感がある饂飩がいい。力強いけれど、決して硬くは、ない。
硬いのをウリにするようでは、
武蔵野うどんを認識し損なうひとを増やすばかりなので、
その観点からも実に素晴らしい。

粉の甘いような風味もほんのりと感じられ、
豚肉の甘い旨味がそれを相乗して美味しがらせてくれる。蕎麦湯ならぬ饂飩湯を供してくれるのも、
真っ当なる粉を使っている誠実さがゆえでありましょう。
いやー、大団円、大満足であります。

残念ながら近場ではないこともあって、
それから一年半弱間が開いてしまった或る夏の日。
ふたたび国道17号線、中山道沿いにやってきた。すると、ちゃんと長方形のフォルムだった暖簾が、
擦り切れてボロボロになっていた(笑)。
生地の丈夫さにもよるだろうけれど、
「田舎っぺ」のうどんを求めて、
どれだけの数のひと達が暖簾を払ったのか、
想像に難くないところです。

案内されたカウンターの隅で厨房の様子を眺める。
左手の湯殿前では、湯気とともに立ち動く、
主人らしき方の逞しき背中が映る。厨房中央の棚には、ほうれん草の小皿や、
トッピングの葱、生姜、油揚げあたりの小皿がスタンバイしてる。

カウンターでのご註文は、なすセットにきんぴらとほうれん草。「きんぴら」は、如何にも使い込んだ大鍋から、
掬い上げるように届けられるのであります。

セットの葱、生姜、油揚げの載った角皿には、
東風吹かば匂ひをこせよ梅の花……の和歌が謡われている。武蔵野うどんの他店では、
陶器や漆塗りなどの鉢に盛り付けるところも少なくないけれど、
此処「田舎っぺ」では、笊に盛るのが仕来たりである模様。

やっぱり飾り気なく、実直な麺が素晴らしい。薄切りの茄子をたっぷりと浮かべた汁もいい。
そりゃ、豚バラ肉の肉汁と地粉うどんとの相性には敵わないけれど、
「なす汁」も旨けりゃ、きっと「きのこ汁」も美味しいに違いない。

ご馳走様と告げたお会計の際、
持ち帰り用うどんパックに囲まれた、
二枚のモノクロームが目に留まる。創業当時の様子を示すものなのでしょうね。

北本は鴻巣寄りの中山道沿いに、
元祖の味、武蔵野うどん「田舎っぺ」北本店はある。世に”元祖”と謳いつつも、
元祖としての本懐を失ってしまっている店は、ある。
どっこい、ここ「田舎っぺ」は、歴年の風格ある佇まいも然り、
ヴィヴィッドで誠実で、なにより美味しいうどんの味も然り。
“元祖”の名に寄り添う武蔵野うどんの店だと、そう思っています。

「田舎っぺうどん」北本店
北本市深井7丁目159-2[MAP]048-541-4137
https://inakappeudon.com/

column/03835