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御膳處「柚」で鰈の煮付手羽大根粕漬目抜け粕漬焼鯵フライ日替り御膳に定番四品

ウン十年も八丁堀をうろうろしていると、界隈の飲食店たちの変遷を図らずながらも目の当たりにすることになる。
同僚たちの間で懐かしく話すのは、焼肉「梨の家」がテナントしているビルか「小諸そば」の建物の辺りにあった「さがみや」。
フライものなんかも得意な旨くて勢いのある定食を供してくれるいい店だった。
それ以外にも、現在ファミリーマートがある場所にあった鰻屋「大島屋」や今の「鳥元」の入るビルにあった日本料理「あわや」にもちょこちょこお邪魔したことを思い出す。

市場通りに面した焼肉「梨の家」の左脇の横丁を入ると、
そこにも永らくお世話になっている一軒の暖簾がある。ビルの高さに囲まれて、ほとんど陽の射さないと思われる場所に、
ファサードに木々を添えたオアシスが、御膳處「柚」だ。

外観と同様に落ち着いた和の風情が何気に小粋な店内。昼御膳は、定番の四品に日替りの御膳。
日替り膳は水曜日のみ焼き魚で、
煮魚膳も日によって魚が変わる。

或る日の煮魚膳はカレイの煮付け。こっくりとした味付けの煮汁に鰈の身がとろんと解れる。
鰈の旨味と香りが豆腐にも沁みているようで、いい。

或る日の日替り膳は、手羽と大根の粕煮。
粕煮なんて絶対にズルいに決まっていると、
斜に構えつついただけば、やっぱりズルい(笑)。
酒粕の旨味や風味が鶏肉を柔らかく包んでくる。毎水曜日の焼き魚では例えば、目抜けの粕漬け。
酒粕がホイル焼きにも能力を発揮するのはご存知の通り。
魚の白身に独特の香りと甘みを添えて、
こりゃまたズルいちょっとした逸品に仕立ててくれています。

またと或る日の日替り膳は、
定期的に供されて人気のアジフライのタルタルソースがけ。惜しみなく!とばかりに掛け載せられたタルタル。
カタチ麗しく揚げ立ての鰺フライとタルタルのコンビが、
美味しくなかろう筈もない。
これはこれで、ズルいよね(笑)。

そして或る日には、定番のひとつ「わっぱめし」。正円の曲げわっぱに盛り込んだあれやこれやの具材たっぷり。
わっぱの大きさの割に具沢山ゆえの食べ難さもあるものの、
さっぱりとしたおひるにしたい時の選択肢のひとつだ。

またまた或る日には、これまた定番の「鮪ゴマだれ丼」。熱々ふるふるの茶碗蒸しからいただくのがお約束。
出汁に溶いた胡麻ペーストのコクを纏った鮪の切り身が旨い。
錦糸玉子の合いの手もなかなかです。

別の或る日にはこれまた定番の「ねぎとろ丼」。
鮪のすき身が躊躇いもなくたっぷりと載せられ、
万能葱の緑と鶉の玉子の黄色がそれを飾る。
ねぎとろって時々貪るように食べたくなるけれど(笑)、
そんな時に最適な定食だ。ちなみに、店の名を冠した「柚御膳」は、
穴子とイクラのミニどんぶりにサラダ、茶碗蒸し、
小鉢に甘味の御膳であります。

御膳處「柚」もまた八丁堀の横丁にずっとある日本料理店。店名「柚」は、柚子好きな先代がそう名付けたそう。
店名が「柚」なので、柚子皮や柚子の実を使った料理ばかり、
なーんてことは決してない(笑)。
「今日の日替り御膳は何かなぁ」なんて呟きつつ、
これからも時折お邪魔したい。
未だ覗いたことのない二階席にも寄ってみたいと思っています。

「柚」
中央区八丁堀2-21-9 [Map] 03-3551-5522
http://tokyo-yuzu.com/

column/03807

ふぐ旬菜「翠幸」ですきやきハフハフ大人気まぐろ丼手造りハンバーグもいい

八丁堀の鈴らん通りと交叉する裏道のひとつ、通称二八通り。
魚料理「殿長」の跡にできたビストロ「Roven」は最近、ランチの空席を待つ人影が目に留まるようになってきた。
その斜め向かい、この辺りの老舗と云えば、和食・とんかつの「山城屋」。
そしてその並びのビル地階にこっそりとあるのが、ふぐ旬菜・味と酒「翠幸」だ。

おひる時、路上に据えた黒板仕様のA看板では、
夜メニューを覆い隠すようにして、
“寒さに負けない!スイコウのスキヤキ”をアピール。何気なく”八丁堀で30年”とも謳っています。
並びの「山城屋」ほどではないものの、
八丁堀で立派に歴史を刻んできていると云えましょう。

“ふぐ旬菜”と冠するだけあって、
階段の踊り場には鰭が干してあるのが恒例の景色。そう云えば、こちらでひれ酒をいただいたのは何時のことだったろうと、
ちょっと遠い目になったりもいたします(笑)。

厨房の奥に目を遣れば、コンロの上はファイヤー!状態。
牛肉を載せた幾つもの鉄鍋が強い火に炙られています。冬場には特にほとんどのひとが註文するのが翠幸の「すきやき」。
800円とリーズナブルなのも人気の一因となっています。

くつくつと煮えた牛肉から湯気が上がる。過度に霜降りではない肉の煮えばなが、ほろほろとしていい。
割り下の甘さ加減も塩梅やよし。
溶き玉子を絡めていただくズルさをひるからハフハフ堪能するのが、
ちょとした倖せ気分にさせてくれます(笑)。

どうしてもお邪魔する度に「すきやき」と叫んでしまうものの、
「翠幸」のおひるメニューはそれだけでは勿論ない。半端にトロに寄ることなく、端正な鮪の赤身が、
過不足なくどんぶりの頂を飾る「まぐろ丼」。
刻み海苔や摺り胡麻が、何気なくもオツな風味を添えてくれます。

時には気分を代えて、
「手造りハンバーグ」という選択もなかなかどうして悪くない。
右の本格派を思わせるドミグラスソースに意表を突かれる。
みっしりと肉々しいパテは量感たっぷりだ。

おひる時のスキヤキも大人気の「翠幸」は、八丁堀に早30年。偶には夜の部にもお邪魔して、
店名「翠幸」の由来なんかも訊ねてみなくっちゃ。
熱めのひれ酒を啜りながら、ね(笑)。

「翠幸」
中央区八丁堀2-15-6 カガヤビルB1 [Map] 03-3206-0144

column/03800

麺や「七彩」で限定あれこれクラタ塩から夏のもみじに担々麺だだちゃ豆に唐黍に

日本橋・京橋エリアから怒涛の勢いで押し寄せる再開発の波は、八丁堀界隈にも到達している。
八重洲通りと平成通りが交叉する八丁堀二丁目交差点の角地にあった第一長岡ビルもすっかり解体され、無機質な万能鋼板が敷地を囲む。
再開発を目論む側はきっと、区画全体で新しいビルをおっ建てたかったのであろう。
ところがどっこい、ソレハナンノコト?とばかりに従前からの佇まいのままの建物がそこにある。
そうそれは、今やすっかり日常の光景となった八重洲通り沿いの行列の先頭が立つ処でもあります。

行列が長くありませんようにと祈りつつ(笑)、
八重洲通りの舗道を往く。
日により天候により多少の多寡はあるものの、
11時半にはそれ相応のひとの並びとなっています。

充実の定番品「喜多方らーめん」の煮干や醤油に、
いつの間にか塩味が加わったんだねと、
初めて「塩肉そば」をいただいたのは、17年の10月のこと。煮干しも醤油も勿論絶品なのだけど、
塩仕立ては七彩のスープの魅力を直裁に堪能できる。
たっぷりチャーシューとの相性も想像以上であります。

今年18年の03月頃の限定だったのが、
「限定 小豆島海の水とクラタペッパーの塩らーめん」。滋味深い胡椒をフィーチャリングした塩らーめんは、
より輪郭がくっきりしてまた旨い。
KURATA PEPPERを検索すると、
カンボジアの胡椒農園の情報が確認できる。
そんな七彩の塩胡椒らーめんは、数ヶ月後には、
生胡椒グリーンペッパーのせバージョンへと進化したのでありました。

券売機の「気まぐれご飯」をポチとすれば、
「山形のだし」を載せた茶碗飯がいただける。築地の場外で初めて目にしたことを思い出す「だし」。
ご飯によく合うのは先刻承知の助で御座います(笑)。

この夏の七彩は、再開発ラッシュ以上に怒涛の限定祭り。
7月には、ジビエらーめんシリーズの口火を切って、
「夏のもみじの冷やしらーめん」が登場。ここで云う”もみじ”とは鹿肉のこと。
トッピングには象徴的に艶っぽい赤身肉。
いつもの喜多方仕立てとは違う、
どこかつるんとした冷たいスープを啜って、
そのすっきりとしつつも深い味わいに思わず目を閉じる(笑)。
いつもの手打ち麺を冷たいスープでいただくのも、
何気に嬉しいのであります。
噛めば青い香りと刺激の弾ける生グリーンペッパーが、
ここでも活躍してくれています。

晩夏の限定の定番と云えば、
その第一弾が「だだちゃ豆の冷やし麺」。擂り流しただだちゃ豆の滋味がもうそのままいただける。
トッピングのチャーシューがいい合いの手を入れてくれる。
短く切った手打ち麺と一緒に蓮華で啜りたい、
そんな妄想も頭を擡げてきます。

ご飯ものの定番と云えばご存知、「ちゃーしゅー飯」。どこか芳ばしいチャーシューもズルいけど、
かけ廻したタレがまたズルいんだ(笑)。

続く限定にはもみじの冷やしが進化して、
「夏のもみじの冷やし担々麺」となってしまう。トッピングにはたっぷりのそぼろ鹿肉に砕いたナッツ系。
辛そうでいて加減の絶妙なラー油にはただただ感心してしまいます。
こうくるんか~。

そして、晩夏限定の定番第二弾が、
ご存知「とうきびの冷やし麺」。高山の農家さんから届いたというタカネコーンの魅力炸裂!
摺り流しの裏手から麺を引き上げれば、むんずと絡まる。
これぞ大地からの甘さだと思う恵みをたっぷりと味合わせてくれます。

鹿肉によるジビエシリーズの第三弾が、
お待ちかねの「もみじの担々麺」。冷やし担々麺も洗練された美味であったけれど、
こちらも世の担々麺のいずれにも引けを取らない完成度。
クリーミーさと辛みと芳ばしさの塩梅が素敵。
手打ちぴろぴろ麺が担々スープにもよく似合います。

八丁堀の手打ちらーめん店と云えば、
謂わずと知れた麺や「七彩」。食材の探求にも怯みなき両雄が、
珠玉の定番喜多方らーめんに飽き足らず、
季節季節の限定らーめんでもまた唸らせる。
行列の長さが気になるものの、
近くにあって良かったと八重洲通りを歩くたびに思います(笑)。

「七彩」
中央区八丁堀2-13-2 [Map] 03-5566-9355
https://shichisai.com/

column/03764

鮨「伊とう」で相模湾地物魚介の肴鮨伊藤家のつぼは今真鶴の粋な佇まいの中に在る

伊豆というと真っ先に思い出すのがずっとずっと若い頃のこと(笑)。
多分大学に入って最初の夏だったと思うのだけど、多々戸浜か碁石浜辺りの、浜からちょっと離れた山間に建つ別荘を仲間でお金を出し合ってひと晩かふた晩借りた。
夏の陽射しガンガンであっという間に真っ黒になり、日焼けした背中にひーひー。
砂浜に腰掛けてずっと眺めていた夏の海の光景がずっと印象に残っています。
海っていいもんだなぁってね。

それ以来、
道路の渋滞に嵌りつつもちょこちょこ下田白浜方面へ出掛けたり、
会社の先輩たちのクルーザーで西伊豆や南伊豆へ向かったり。
すっかり南の島系リゾートダイバーになっちゃたので、
伊豆のポイントを沢山知っている訳ではないものの、
海の中もやっぱりいい。
そうそう、シュノーケリングも愉しいヒリゾ浜も素敵な場所でした。

話は替わって昨年の晩夏のこと。
「伊豆半島太鼓フェスティバル」というイベントが、
南伊豆の松崎町で催されました。

松崎海岸の防波堤の向こうに夕陽が沈みゆく。
松明が炊かれ、そんな海辺の夕景をバックに太鼓が響く。ロケーションも手伝って、街中の祭り太鼓とはひと味違う臨場感。
地元以外の太鼓団体も招聘し、
例年4組のそれそれに特徴のあるグループが競演する。
既にもう20回近くの開催を数える、
晩夏恒例のイベントとなっているようです。

なかなか素敵なひと時だったし、
遅い夏の伊豆の浜辺で寛ぐのも悪くないぞと、
今年も伊豆行き、松崎町詣でを計画。
ところがなにやら秋雨前線の活動活発により雨予報。
フェスティバルの実行委員会が下した開催の決定にほっとして、
ふたたび松崎海岸の特設ステージ前に陣取りました。
ところがところが、太鼓の演奏中に暗雲垂れ込め雷鳴轟き雷光閃く。
あっという間に物凄い土砂降りとなって、
急遽イベント中止と相成りました。
ずっと多量の雨が打ち続ける中を合羽を頼りにとぼとぼ歩く。
この夏を象徴するような極端な天候を身をもって味わったのでした。

土砂降り雨の翌朝は、
予報が外れて台風一過のような清々しい空。堂ヶ島の並びにある田子瀬浜海水浴場に寄り道してひと泳ぎ。

さっと着替えて長駆、伊豆の尾根を跨いで向かったのは、
湯河原のお隣、真鶴半島のど真ん中。細い半島ゆえの狭隘な道から急坂の先を見上げると、
よく見知った扁額が目に留まる。
八丁堀・入船の市場通り沿いにあった「伊藤家のつぼ」は、
2017年の夏で移転のため店仕舞いしていたのです。

移転先はどんな様子なのだろうと、
駐車場から更に坂道の上を見遣ればなんと、
格式ある旅館のような佇まい。玄関の土間に履物を脱いで板敷きの廊下に上がり、
すぐ脇の引き戸の先へと案内いただく。
忽ち目に飛び込んでくるのは、窓枠を額縁とした紺碧の海と空だ!

そして、柔らかく迎えてくれるのはいつぞやのご尊顔と、
デデンと横たわる一枚板のカウンター。地元の路地物柑橘で作った「真鶴果実のザクザクサワー」が、
すっきりと美味しい(らしい)。
運転手は呑めないねと悔しがる(笑)。

カウンターも然る事乍ら建具や調度もとてもいい。思わずきょろきょろした先には、
スポットライトを浴びた素麺南瓜や台湾茄子、冬瓜なぞの飾りが映る。

口開きは坊ちゃん南瓜の天麩羅に落花生。清澄白河の「リカシツ」で仕入れたという硝子の器に盛り込んだのは、
地のメジナに築地から届いたつぶ貝。
そして、藁で炙った地物の鰹。
辛味を添えたおろし玉葱と実によく合います。

立派な陶板への盛り込みがやってきた。穴子の手毬鮨はもとより地物の蛸に煮付けた床臥がいい。
どうやって蛸を柔らかく煮るのかと大将に訊くと、
なんでも一度冷凍するのもコツのひとつなんだそう。
嗚呼、お猪口をきゅっと合せられないのがなんとももどかしい(笑)。

と、大振りで活きのいい伊勢海老の顔見世興行(笑)。ちょっと可哀想な気にもなるけど、
さてどんな姿で供されるのか愉しみが膨らみます。

握りの手始めは、地の笠子。
カサゴらしい品の良い甘さが口腔にすっと広がります。皮目も艶やかな奴はと云えば、これまた地物の金目。
相模湾の深いところに潜んでいた奴なんでしょう。

島寿司よろしく芥子をちょんと戴いた鮪の酸味。白鯛は昆布〆にすることで艶が出て、
利かせた梅酢もまた粋な仕事になっています。

ひと呼吸置かせてくれた椀の中心には、真薯がある。
そのネタは嘗てスミヤキと呼ばれたクロシビカマスだそう。
相模湾周辺でよく食べられるもののようだけど、
初めていただくお魚であります。そして、障泥(アオリ)烏賊が旨い。
麺状に切りつけたものを纏めて、胡麻をあしらい檸檬を搾って。

旨いと云えば藁炙りしたトロがいい。秋刀魚も炙れば、実山椒の似合う味の凝集をみる。

巻物に続く大トリがお待ち兼ねの伊勢海老。身包み剥がされ、こんな姿になってしまって!と一瞬思うも、
そんなことはすっかり忘れて、
口に含んだ素敵な甘さにただただにんまりしてしまいます(笑)。

時季や海況により左右されてやりくりする必要は勿論あるのだけれど、
相模湾周辺から眼下の真鶴港に揚がる地物の魚介を極力供したい。
そう、大将は仰る。
それを八丁堀で鍛えた(笑)、手練で繰り出してくれるし、
そのステージや背景が素晴らしい。
加えて、大将や女将さんから自ずと滲み出るひと当たりの良さも、
大きな魅力なのであります。

八丁堀・入船で人気を集めた「伊藤家のつぼ」は今、
真鶴半島の真ん中の粋な佇まいの中に在る。此処が「伊藤家」「伊とう」となる前は、
旅館をリノベーションして、
岡本太郎作のユニークな「河童像」が出迎える、
アートミュージアムであったらしい。

アートミュージアム閉鎖後の建物を手に入れて、
あちこち傷みのきていた内外装に手を入れて、
雰囲気に似合うアンティークな家具を揃え、
大きなカウンターを重石に据えた鮨「伊とう」には、
なんとお泊りが出来る。宿泊場所となる二階の肘掛け縁からも勿論、
相模湾の青に臨むことが出来る。
そう、お泊りしちゃえば、車の運転の心配もないまま、
お酒をお供に大将の料理や握り、お喋りを堪能できるのです(笑)。

「伊とう」
神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴1200-18 [Map] 0465-87-6460
http://manadurunoitoke.blog.jp/

column/03757

八丁堀「中華シブヤ」で素直に旨いニラ玉ライスひるメニューたち正しき町中華の店が

築地川へと繋がる、嘗ての楓川に架かっていた弾正橋。
江戸の初期、その東詰に島田弾正忠利正屋敷があったことが、橋の袂に建てられた記念碑に刻まれている。
今はその橋の上を鍛冶橋通りが通り、さらに橋の上下を首都高の環状線が交叉して、絶え間なく車の走行音を周囲に轟かせています。

その弾正橋の片側に設けられた公園に面して、
一軒の中華料理店が町の風景に馴染んでいる。店の勝手口にも見える入口脇の表札で、
その町中華が澁谷さん家の営むものであることが判ります。

と、そんな八丁堀界隈の日常のお店が、
一夜にして脚光を浴びるようになった。
ご存知の通り、TX「孤独のグルメ Season7」の最終話に登場。
松重豊扮する井之頭五郎が見慣れた八丁堀の裏通りを闊歩する映像は、
ちょっと不思議でどこかむず痒いような気持ちにさせました(笑)。

放送後の7月初旬にお久し振りに店を訪れる。すると、番組を観て訪れる客への対応からか、
番組で話題になったメニュー「ニラ玉」のみにて、
100食限定に制限されていました。

それ故、註文の声を発することなく、
入れ込みのテーブルにて待つこと数十秒。当の定食「ニラ玉」がやってくる。

楕円のお皿のおよそ全域を覆うような玉子の絨毯。
その外周の所々からざく切りしたニラが顔を出す。改めていただいた「ニラ玉」が、素直に旨い。
豚肉とともに油との相性よき韮をさっと炒め、
北京鍋に流し込んだ溶き玉子を手早く纏めて、
その上に載せる所作が自ずと想起される。
味付けの中に旨味の芯がちゃんとある。
某ズルい系万能調味料を思い浮かべちゃったくらい(笑)。

月が替わっての8月の初旬には、多少体制が図れたのか、
おひる時に3品が用意されるようになる。「ホイコーローライス」は何気に大振りな豚ロースたっぷり。
「ニラ玉」に負けず劣らずゴハンの進む旨いヤツであります。

8月中旬になってやっと落ち着いてきたのか、
通常のランチメニューを選べるようになる。「チャーシューメン」はこれぞ昭和な町中華のちゃんとした方のヤツ。
従来からの寸胴の基本の基本を着実に踏まえた様子のスープ。
煮豚にメンマ、やや細めの縮れ麺もいい。

ところがところが、8月下旬にふたたびお邪魔したところ、
店先に閉店を告げる貼紙を見付けることとなる。既報の通り、いよいよ期日の迫った築地の移転が大きな理由。
160束になる「ニラ玉」用の韮や野菜たちを
毎朝店主自らやっちゃばで仕入れているが、
至近な築地なら足回りもよく、バイクが仲卸店に横付けできた。
そんな市場が豊洲に移転してしまうと、
市場までの行き来の距離、そして場内移動の距離や方法が変わり、
それが仕込み時間などに影響し、お皿にも及び兼ねない。
年齢的にも無理が出来ないと判断されたという。

9月末の閉店までの期間の夜の営業時間帯は、
あっという間に予約で一杯になる。
ひる時の開店時間前から出来ていた行列は、
閉店告知の報を受けて熱を帯びるようになる。

そんな行列にそっと紛れ込んで「鶏バンバンジー」。これも650円というのは、
今更乍らなかなかにお徳なのではないかと腕組みしたりする。
ライスの代わりに所望する素朴なる「チャーハン」も同価格。
なんせ500円もしくは550円のラーメン類以外は全て、
650円なんですもの(ライス別)。

9月半ばのあるおひるには、「チンジャオロース」を。
青椒肉絲と呼ぶ程細切りでもないのが「シブヤ」の個性(笑)。「ニラ玉」に通じる味付けの按配は、
「ヤキソバ」にも勿論盛り付けられています。

いよいよ閉店が迫ってきた9月下旬。
外出ついでに行列に交じり一回転目でテーブルに着く。
席が埋まったところで気のいい女将さんがこう註文をとる。
「ニラ玉のひと~」。
「はーい!」
皆が一斉に手を挙げる様子はまるで小学校の元気な教室のようだ(笑)。

「ニラ玉」に追い駆けてお願いした、
「ラーメン」もまた素敵な一杯。スープと麺とを啜り味わったところで、
前後して届いていた「ニラ玉」をするするっとドンブリにスライド。
勝手に「ニラ玉麺」にしてしまう。
「ラーメン」そのままにもまったく文句はないけれど、
ニラ玉の美味しさをラーメンのスープや麺と一緒に愉しむのも、
これまた旨いのだ(「ニラ玉麺」と註文もできるけどね)。

60年もの永きに亘り八丁堀の片隅で営んできてくれた、
「中華シブヤ」が間もなくその営業を止める。思えば築地市場の移転延期が齎したともいえる注目や混雑にも、
驕ることなくいままで通り誠実にとする姿勢が、
厨房からも伝わってくる。
「シブヤ」の夜の部メニューで、
何度もちょい呑みしておくんだったと後悔頻りです。

「中華シブヤ」
中央区八丁堀3-2-4 [Map] 03-3551-9021

column/03756