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あさめし「前田”本舗」で肉ラーメン塩に鶏そばラーメン山頭火の跡地研究所

初めて旭川駅に降り立った時のことを思い出す。
降り立ったといってもJR北海道の列車からではなくて、旭川空港からの連絡バスのタラップから。
空港バスが到着する駅北口のロータリーから壁のように存在感を示す駅ビルを背にして、ゆっくりと歩き出す。
緑橋通りは、駅ビルから直角に、そしてずっと真っ直ぐに北に延びる大通りだ。
するとすぐ、ふた筋目の角で目に飛び込んでくるのが、あの「山頭火」本店の暖簾であります。

風に悴む頬に思わず早速飛び込んで、
「しおらーめん」をいただく。
今はなき恵比寿店の行列に並んで、
初めて味わった特異な一杯を思い出す。
それがもう4半世紀も前のことかと思うと気が遠くなる(笑)。
当時、どこか物足りないとも思った塩豚骨スープも、
今頃になってやっと、一種の洗練があるなぁと思い至ります。

ふたたび旭川を訪れた早めのおひる時。
そんな「山頭火」本店から更に北へ歩きはじめると、
ハラハラと雪が舞い降りてくる。
めげずに5分程歩くと、
通り沿いにドラム缶を縦に積んだ造形物が見つかります。その頭頂部の円筒には、山頭火本店の文字。
どうやらこちらが、駅前へ移転前の「山頭火」本店の地であるらしい。
当時は”専らつけ麺”だったのでしょうか。

そうであるならばと「肉ラーメン塩」を註文してみる。一見シンプルなドンブリの真ん中に、
「山頭火」のアイコンとでもいうべき小梅の紅い粒が載る。
具材たちが別皿で届き、俵状のお握りに沢庵も添えられてきます。

明らかに黄味を帯びたスープがみるみる膜を張り始める。
でも、啜るスープはあさっとりとして、
でも、山頭火の塩らーめんとは明らかに違う。黄色いスープの中から引き上げた麺はといえば、
これまた黄味を帯びている。
ドンブリの全体感からは、
旭川ラーメンの一派と括ってしまってもよいような、
そんな気もしてきます。

実は、カウンターに備えられた品書きが悩ましい。
基本形と思しきラーメンに、醤油、塩、味噌、
そして、同じ3種のスープのつけ麺に肉ラーメン。
冒頭には”おすすめは醤油味”だなんて書いてある。
なーんだ、塩じゃなくて醤油だった(笑)?上段中頃には、ありそでなさそな「そばらーめん(醤油)」の文字。
数量限定のラーメンあれやこれや、
つけ麺あれこれにセットメニューと、
通えない旅人は選び迷って半狂乱となってしまいそう(笑)。

限定メニューあれこれの中から「鶏そばラーメン」を選んでみる。
紅いナルトがラーメンのような、油揚げがきつね蕎麦のような。甘汁のようなスープから引き上げた麺はなるほど、
蕎麦のようでいて、ラーメンの麺のようでもある。
ラーメンの麺の生地に蕎麦粉を混ぜればきっとこうなる。
もともと似通った汁モノの両者を敢えて融合されるとこうなるよねー、
という実験と研究の成果が”そばラーメン”なのでありましょうか。

セットメニューの中にあった一行を見付ければ、
どこの国のこと?と誰もが呟く「レバノン」。それは、レバーを揚げ炒めて濃い目のタレに絡ませたヤツ。
こいつぁ午前中から麦酒が欲しくなるじゃぁねーかと思いつつ、
その下に忍ばせたご飯とじっくりと混ぜ合わせると、
よりいい感じにそそるひと皿になるのであります。
それにしても、「レバノン」の”ノン”て何でしょうね。

「前田本舗」の厨房は、意外と多くのひとがきびきびと立ち動く。
ユニフォーム的ポロシャツの背には、
山頭火本店にあさめし前田”本舗の双方を併記。叉焼の下拵えにしては随分と大きな肉塊を俎板に据えて、
余計な脂やスジを丁寧に取り除く様子が見れたりする。

裏を返して「レバーとニラの焼きそば」醤油味。レバーの旨味がラードっぽい脂の甘さと渾然となって、
それを纏った麺や具材たちがグイッと迫る。
焼きそばに揚げ玉を塗すってもの一手でありますね。

旭川駅「山頭火」本店前から緑橋通りに徒歩5分。
移転前の「山頭火」本店跡地にあさめし「前田”本舗」はある。「山頭火」代表の畠中仁さんが、
「山頭火」の新メニューを考案するための、
「研究所的店舗」として流通団地に開いたのが、
この店のはじまりだったらしい。
その後きっと色々な変遷があったのやもしれないけれど、
調理や接客などなどに、力まず誠実にそして楽しげに向き合っている、
そんな様子が、厨房の気配から何処となく伝わってきます。

「前田”本舗」
旭川市三条通8 緑橋ビル一号館 [Map] 0166-26-7567

column/03781

中華そば「大河」で中央市場の中華そば全部入り河岸のラーメンに井上を想う

名古屋駅の桜通口。
巨大なターミナル駅を背にして、およそ真っすぐ東に向かう。
ミッドランドスクエアの裏手、さらにはミッドランドスクエアシネマ2の入るビルの裏手に回ればそこには、柳橋中央市場の区画が出現する。
距離感だけで云えば、東京駅八重洲口を出て、八重洲通りと昭和通りの交叉点、京橋一丁目信号辺りに魚市場があるって感じに相当するのやもしれません。

ミッドランドスクエアの偉容と昭和なままの市場の景観は、
なかなか面白いコントラスト。柳橋中央市場は、民間の中央市場。
築地場外よりもひと回りふた回りコンパクトな印象の市場は、
ひる前ともなれば落ち着いた空気が漂っています。

マルナカ食品センターの緋色地の袖看板を見上げつつ、
テント地の庇の下の入口から棟内に闖入する。活魚鮮魚、太物、海鮮珍味、乾物などの店が営業を終えた棟内には、
丼物や地魚料理の店、寿司店などが鋭意営業中。
その中の一軒に、中華そば「大河」があります。

「ラーメン全部!」とお兄さんに声を掛けて、
通路の真ん中に置かれたテーブルを囲む丸椅子のひとつに腰掛ける。
待つ間もなく当のどんぶりが運ばれてくる。細もやしを薄切りのチャーシューで覆うようにこんもりと。

スープに浮かぶ細やかな脂。
山を半ば崩すようにして蓮華をスープに挿し入れて、啜る。そのスープにはグルタミン酸を思わす甘さを含む。
でも、まったく嫌じゃない(笑)。
真っ先に思い浮かべたのは、
焼失してしまった築地場外の「井上」のこと。
「井上」の中華そばをちょっと上品にしたような、
そんなラーメンが眼前にあるのです。

麺は、茹で加減のよろしいやや細めのストレート。このスープにはこの手の麺でしょうと思わせる、
納得の組み合わせなのであります。

その一ヵ月後くらいのおひる時、また名古屋にいた。そんなこんなでふたたびマルナカ食品センターの開口部。
入ってすぐの場所が中華そば「大河」のポジションだ。

今度は「ラーメン」に「味玉」トッピング。
無料という文字を見付けて、もやし増量で(笑)。なかなかどうして、やっぱりいい感じの一杯だ。
無化調でもなんでもないけれど、
毎週食べても飽きないような気配も感じます。

名古屋駅近くの柳橋中央市場内。
マルナカ食品センターに中華そば「大河」はある。市場の中華そば店なので当然だけれど、
ここでは朝の6時からラーメンがいただける。
今はなき築地「井上」のように、
出勤前に訪れることを定番としているひとがきっといる。
泥酔の夜明けにやってくるツワモノもまたきっと(笑)。

「大河」
名古屋市中村区名駅4-15-2 マルナカ食品センター [Map] 052-564-8733

column/03772

八丁堀「中華シブヤ」で素直に旨いニラ玉ライスひるメニューたち正しき町中華の店が

築地川へと繋がる、嘗ての楓川に架かっていた弾正橋。
江戸の初期、その東詰に島田弾正忠利正屋敷があったことが、橋の袂に建てられた記念碑に刻まれている。
今はその橋の上を鍛冶橋通りが通り、さらに橋の上下を首都高の環状線が交叉して、絶え間なく車の走行音を周囲に轟かせています。

その弾正橋の片側に設けられた公園に面して、
一軒の中華料理店が町の風景に馴染んでいる。店の勝手口にも見える入口脇の表札で、
その町中華が澁谷さん家の営むものであることが判ります。

と、そんな八丁堀界隈の日常のお店が、
一夜にして脚光を浴びるようになった。
ご存知の通り、TX「孤独のグルメ Season7」の最終話に登場。
松重豊扮する井之頭五郎が見慣れた八丁堀の裏通りを闊歩する映像は、
ちょっと不思議でどこかむず痒いような気持ちにさせました(笑)。

放送後の7月初旬にお久し振りに店を訪れる。すると、番組を観て訪れる客への対応からか、
番組で話題になったメニュー「ニラ玉」のみにて、
100食限定に制限されていました。

それ故、註文の声を発することなく、
入れ込みのテーブルにて待つこと数十秒。当の定食「ニラ玉」がやってくる。

楕円のお皿のおよそ全域を覆うような玉子の絨毯。
その外周の所々からざく切りしたニラが顔を出す。改めていただいた「ニラ玉」が、素直に旨い。
豚肉とともに油との相性よき韮をさっと炒め、
北京鍋に流し込んだ溶き玉子を手早く纏めて、
その上に載せる所作が自ずと想起される。
味付けの中に旨味の芯がちゃんとある。
某ズルい系万能調味料を思い浮かべちゃったくらい(笑)。

月が替わっての8月の初旬には、多少体制が図れたのか、
おひる時に3品が用意されるようになる。「ホイコーローライス」は何気に大振りな豚ロースたっぷり。
「ニラ玉」に負けず劣らずゴハンの進む旨いヤツであります。

8月中旬になってやっと落ち着いてきたのか、
通常のランチメニューを選べるようになる。「チャーシューメン」はこれぞ昭和な町中華のちゃんとした方のヤツ。
従来からの寸胴の基本の基本を着実に踏まえた様子のスープ。
煮豚にメンマ、やや細めの縮れ麺もいい。

ところがところが、8月下旬にふたたびお邪魔したところ、
店先に閉店を告げる貼紙を見付けることとなる。既報の通り、いよいよ期日の迫った築地の移転が大きな理由。
160束になる「ニラ玉」用の韮や野菜たちを
毎朝店主自らやっちゃばで仕入れているが、
至近な築地なら足回りもよく、バイクが仲卸店に横付けできた。
そんな市場が豊洲に移転してしまうと、
市場までの行き来の距離、そして場内移動の距離や方法が変わり、
それが仕込み時間などに影響し、お皿にも及び兼ねない。
年齢的にも無理が出来ないと判断されたという。

9月末の閉店までの期間の夜の営業時間帯は、
あっという間に予約で一杯になる。
ひる時の開店時間前から出来ていた行列は、
閉店告知の報を受けて熱を帯びるようになる。

そんな行列にそっと紛れ込んで「鶏バンバンジー」。これも650円というのは、
今更乍らなかなかにお徳なのではないかと腕組みしたりする。
ライスの代わりに所望する素朴なる「チャーハン」も同価格。
なんせ500円もしくは550円のラーメン類以外は全て、
650円なんですもの(ライス別)。

9月半ばのあるおひるには、「チンジャオロース」を。
青椒肉絲と呼ぶ程細切りでもないのが「シブヤ」の個性(笑)。「ニラ玉」に通じる味付けの按配は、
「ヤキソバ」にも勿論盛り付けられています。

いよいよ閉店が迫ってきた9月下旬。
外出ついでに行列に交じり一回転目でテーブルに着く。
席が埋まったところで気のいい女将さんがこう註文をとる。
「ニラ玉のひと~」。
「はーい!」
皆が一斉に手を挙げる様子はまるで小学校の元気な教室のようだ(笑)。

「ニラ玉」に追い駆けてお願いした、
「ラーメン」もまた素敵な一杯。スープと麺とを啜り味わったところで、
前後して届いていた「ニラ玉」をするするっとドンブリにスライド。
勝手に「ニラ玉麺」にしてしまう。
「ラーメン」そのままにもまったく文句はないけれど、
ニラ玉の美味しさをラーメンのスープや麺と一緒に愉しむのも、
これまた旨いのだ(「ニラ玉麺」と註文もできるけどね)。

60年もの永きに亘り八丁堀の片隅で営んできてくれた、
「中華シブヤ」が間もなくその営業を止める。思えば築地市場の移転延期が齎したともいえる注目や混雑にも、
驕ることなくいままで通り誠実にとする姿勢が、
厨房からも伝わってくる。
「シブヤ」の夜の部メニューで、
何度もちょい呑みしておくんだったと後悔頻りです。

「中華シブヤ」
中央区八丁堀3-2-4 [Map] 03-3551-9021

column/03756