四季酒肴求心「金田」で皮剥薄造り白海老喜知次煮付菊正宗燗酒自由が丘の名酒場

色々なチャネルで発表される”住みたい街ランキング”。
一時はそのトップ5に入っていた自由が丘は、最近はあまりその話題で注目されることはなくなりました。
お洒落さを特に強く感じたことはなかったけれど、周囲に落ち着いた住宅地を控えつつちょいと買い物したり食べ歩いたりするのに程よいコンパクトさのある街として、沿線住民だった頃にはお世話になった。
ごちゃっとしてどこか下町チックにも思う駅周辺もお馴染みであります。

高架下に直接出る北口改札からすぐ。
スタバと天ぷら「天一」の間を折れ入れば、
ひるから呑めちゃう鰻処「ほさかや」のある、美観街なる裏通り。
通りの名前とは裏腹に、どこか雑然としてるのも魅力の横丁(笑)。
その短い裏通りのちょうど真ん中辺りにあるのが、ご存じ「金田」だ。

凸部がふた山あるWコの字のカウンターの一辺に落ち着き、
厨房の下がり壁を見上げれば、木札の品書きが目に留まる。 厨房に向かって左手の壁には、これまたご存じ、
“金田酒学校”とも称される「金田」の”生徒たち”により、
80周年を祝い贈られたプレートが掲げられている。

瓶の麦酒で喉を潤しつつ、
ふたつ折りされたその日のお品書きを眺めるのも愉しいひと時。 残念ながら既にヤマになってしまったメニューには、
赤鉛筆で打ち消し線が引かれています。

あちこちに目移りして気も漫ろになりつつも、
冬場の品書きで惹かれるメニューの筆頭が「活〆カワハギ薄造り」。 肝を薬味とともに薄造りの透明な身に包み、食む。
うんうん、やっぱり河豚より美味い(笑)。

「白エビ」と云えば、富山からの贈り物。
殻を除き集めた宝物のような甘みを少しづつ堪能しましょう。 「菊正宗」の燗のお銚子を傾けていたところに、
「釣りキンキの煮付け」が届く。
あっさりめに煮付けた身の甘さにほっこりだ。

燗酒が似合う寒い日には「鳥鍋」もいい。 熱々に蒸し上げられた磁器の器の蓋を外せばそれは「かぶら蒸し」。
おろした蕪がふっくらとした上品な滋味で迫ります。

蕨白和え、行者大蒜、蕗味噌、独活酢味噌にこごみ胡麻。
春の気配を感じてきたならば、「山菜盛り合わせ」がいい。 タラの芽の天ぷらだって、負けじと春の息吹なを感じさせる。
そうそう、白出汁を用いたような薄味ゆえか、
「若竹煮」の柔らかな筍や活き活きとした若芽が妙に旨い。

揚げ物にして煮物のようにも思えるのが「新ジャガイモ唐揚げ」。 しっかりと煮含めたのであろう出汁の旨みが、
素揚げに閉じ込めたじゃが芋の魅力を倍加させて、そっと迫る。

塩梅のいい脂ののりと繊細な皮目の「太刀魚塩焼き」と「菊正宗」燗酒。 透明なとろみあんに浮かぶは「里いも満月むし」。
里芋の甘みを真っ直ぐ味わえて、成る程、美味しい。

お造りの定番のひとつと思うのが、「活〆関アジさしみ」。
一段違う濃いぃ旨味を堪能するに相応しい身の厚みが嬉しい。 定番と云えば、地味にして美味な「オカラ」にも、
隠れたファンが少なからずおられるものと存じます。

自由が丘の名酒場と聞けばそれはきっと、
四季酒肴求心「金田」のこと。 お品書きに用意される趣向たちは、
そんじょそこらの居酒屋のそれとは仕立ても品格も違う。
それを目当てに集まるのは、それなりに年嵩なご同輩。
一度、話しているうちに声が大きくなったようで、
そっと注意を促す所作を得たことがある。
堅苦しいことは決してないけれど、
かといって自由奔放な若者はきっと居心地がよくないと思う。
そして自ずと名酒場の一端を担う客層が選ばれていくのですね。

「金田」
目黒区自由が丘1-11-4[Map]03-3717-7352

column/03840

鮨「石島」本店で柚子香るづけ霞ヶ浦の白魚蛍烏賊のスチーム桜の頃のカウンター

午後から振替の休暇をとった午前中。
ふと、鮨が食べたいと思い付くことがあっても不思議は、ない(笑)。
京橋方面へ足を向けて、「京すし」か「目羅」へという手もあるなと腕組み思案。
頭の中のエリアをもう少し広げてみると、京橋公園のある光景が浮かんできた。
そうだ、正午過ぎ辺りにあの店を訪ねるのが妙案だ。

脳裏に浮かんでいたのは、
この木立越しに佇む鮨「石島」の建物。 看板建築よろしく、緑青の噴いた銅板の外壁がいい。
暖簾の上の軒下で睨みをきかせているのは、
鍾馗さんではなく、鬼瓦の類のようです。

梁とスラブとの空間を懐にして、
天井板の代わりに煤竹を配した意匠が目に留まる。 10席ほどのL字のカウンターには、
ひとときを思い思いに愉しむ顔が並んでいます。

淡路の真鯛に紀州勝浦の鮪。 大き過ぎず小さ過ぎず。
スマートなフォルムに小さく頷いたりなんかする。

枕崎の鰹に柚子の香るづけ。 赤酢の舎利は好みの仕立て。
鮪のづけに過ぎない柚子の香りがよく似合う。
極薄い白板昆布に透けた〆鯖が妖艶だ。

霞ヶ浦の白魚に函館の雲丹。 芝海老の玉子焼きを挟んで穴子、という流れも悪くない。

もう少し摘みたいと思えば、この時季恒例の蛍烏賊は、
富山滑川のスチーム仕立て。
フレッシュでいてふっくらとして、うん旨い。 魴鮄に続いて最後にいただいたのが、貝割れ大根。
軽い漬物になっていて、シャクっとした歯触りが面白い。
ああ、芽葱の握りも食べたいな(笑)。

「石島」本店のネタ箱は、カウンター埋込み方式。
客席からの目線に近いところにあり、
かつ古の硝子ケースのように視線を妨げることもない。 開け放った入口の向こうからも、春の空気が感じられます。

ちょうど一年ほど前の思い出を振り返ってみる。 小豆羽太の昆布〆に天草の小肌。

四丁づけにしたのも鯖ではなかったか。 黒い細帯が目印の細魚に黒い帯の玉子焼き。

銀座の外れ、京橋公園のお向かいに鮨「石島」本店はある。 「LA BETTOLA da Ochiai」の近所と云えば、頷く人も多いはず。
新富町のお店「石島」には、
開店早々に何度かお邪魔したけれど、
最近ご無沙汰しています。
でも、休暇の午後にはまた、
こちら本店のカウンターにお邪魔してしまいそうな、
そんな予感がする。
特に春にここを思い出すのはもしかしたら、
ビストロ「ポンデュガール」の前にある、
新富橋の桜の木の所為なのかもしれません。

「石島」本店
東京都中央区銀座1-24-3[Map]03-6228-6539
http://www.sushi-ishijima.com/

column/03839