自家製酵母ぱんと手作りあんこの店「いちあん」であんパンあれこれ愉し美味し

いつもお世話になっている、おでん「鯔背や」が所在しているのが所沢市旭町。
所沢駅の北側、西武池袋線と西武新宿線を踏切で跨ぐ道路から北側が旭町なのだけれど、同じ旭町の東端にも時折足を向ける店があります。
一軒は季節ごとに鉢植えなんぞを買い求めたりする、半世紀近い歴史を刻む「所沢園芸センター」。
もう一軒がちょっとお気に入りのベーカリーカフェ「いちあん」なのであります。

所沢医療センターのバス停を前に佇む「いちあん」は、
元コンビニを思わせるようなフォルムの平屋建て。香ばしいパンたちの匂いに包まれつつ物色する棚の上には、
幾種類ものあんぱんをはじめとする、その日のラインナップがあれこれ。
迷いに迷って、困ります(笑)。

お店の前からなだらかな坂道を下っていくと、
1分ほどで所沢航空記念公園、
通称航空公園の入口のひとつに辿り着く。 コロナ禍による初めての緊急事態宣言下には、
「いちあん」でパンを買い込んで航空公園の何処かで食べるのが、
ちょっとしたルーティーンになっていました。

公園内は平らなようでなかなかの起伏があって、
芝生で覆われた小高い丘の上にポツンとあるベンチが特等席。ベンチに佇んでまずは、初夏の陽射しにほのぼのとする。
カップのコーヒーを用意しつつ噛り付くは、
「いちあん」自慢の自家製つぶあんを使った、
定番人気の「あんバター」。
自家製のバタークリームには、
オーガニックのバニラビーンズを使用。
あんことバターのベストマッチって、
一体全体誰が初めて編み出したのだろうと、
食べる度に思ってしまいます(笑)。

薄曇りの日には気分を変えて、
池の周囲に置かれたベンチのひとつに居場所を得て、
買い込んできたパンを掌に載せる。あんことマスカルポーネ、そして白パンとの組み合わせ。
これもまたズルいなぁと思いつつ、また齧る。
「黒ごまあんぱん」をじっと眺めていたら、
俳優の酒井 敏也を思い出したのは何故でしょう(笑)。

店内のA看板に書かれたランチメニューに惹かれて、
今度はテーブルに座るひととなる。レジ横でセルフサービスするお水は、
滋賀県は大津の鉱山で採取される「岩清水」だそう。
パンの仕込み水に使用しているヤツのお裾分けみたい。

「いちあん」のランチは、
期間限定の季節のスペシャルプレートに、
「本日のパン」プレートが並び立つ。「春のスペシャルタルティーヌプレート」は百花繚乱。
いちあん自家製ドレッシングによる基本のサラダに、
ハーブソースのタルティーヌ、
オーガニックジンジャー&味噌ペーストのタルティーヌ、
自家製いちごジャムとマスカルポーネのタルティーヌ、の3タル(笑)。

白いんげん豆のサラダに無農薬野菜のピクルス等々に、
無農薬野菜のほっこりスープもついてくる。毎度いいなぁと思うのが、
杏仁的ジュレに促されてあんこの魅力が花ひらく「あんプリン」。
たっぷりバージョンにしてもらったコーヒーも旨い。

窓辺のカウンターに座っては、
「ポーチドエッグと野菜畑のパンプレート」。豆乳ごま味噌とフレンチ、2種類のドレッシングを添えた、
15品目のサラダが覆うプレートの中央に、
ポーチドエッグがお待ち兼ね。
ヘルシーなもののサラダばかりだと食べ難さも思わせるシーンに、
玉子のこく味はいいアクセントになるのですね。

期間限定のこちらは確か秋の或る日のことでしたか。
「あっつあつグラタンパンプレート」。グラタンポットにしたパンがでんとお皿の中央に鎮座。
自家製ドレッシングの定番サラダたちやピクルスに季節のデリ、
そしてあんこを使ったミニデザートが周囲を固める。
うん、いいね。

あ、そうそう、陽射しギラギラの真夏に訪れたなら、
やっぱりかき氷も外せない。
この日のかき氷は苺たっぷりの「ガトーフレーズ」だ。無農薬苺による苺ソースに苺のホイップ。
そしてカスタードソース的アングレーズソースと、
三層トッピングでぐいと迫る。
苺の香気を前面に酸味と甘みが交錯して、
スプーンの先をどんどん動かせと急かしてくるんだ(笑)。

そうそう、苺と云えば季節のパフェが、
「プレミアム苺」だったこともある。すわ、あんことイチゴの組み合わせかと思わせて、
カカオ風味だったりするのもまた愉し。
ああ、オヤジひとりイチゴのパフェを貪るは、パン店の片隅で(笑)。

航空記念公園信号から徒歩1分に、
自家製酵母ぱんと手づくりあんこの店「いちあん」はある。「いちあん」の「いち」は市川さんの「いち」。
「いちあん」の「あん」は勿論「あんこ」の「あん」。
ナチュラルにして実直な佇まいが、
命名のセンスにも現れているような、
そんな気がいたします。

「いちあん」
所沢市旭町27-23​[MAP]04-2941-6862
https://www.ichian.co.jp/

column/03836

元祖の味「田舎っぺ」北本店で肉葱饂飩茄子饂飩元祖の名に寄り添う武蔵野うどん店

埼玉県の中東部に位置する北本市。
それまで所縁のひとつもなかったので、此方のお店に足を向けたのがきっと、北本との初めての縁だったのでありましょう。
他に目的地が思い浮かばないので恐らく、鴻巣の運転免許センターに国際免許を取得しに出向いた流れだったではないかと思います。

免許センターから少し南下した国道17号沿い。
大型トラックも行き交う街道沿いに並べられた幟の向こうに、
「田舎っぺ」の文字が見えてきました。看板には「名物きのこ汁つけうどん 発祥の店」とあり、
平屋建ての店舗の真ん中には、
「元祖の味」と示す白暖簾が掲げられています。

外観に思うのと違った広々とした印象の木造りの店内。
天井高く、凝った意匠の造作もみられます。カウンターの左隅の丸太椅子の上をよくみると、
サンプルらしきうどん笊が載っている。
普通盛りと大盛りあたりのボリュームを直観できるように、
そう配慮したものなのだろうと推測します。

「目に言う」と題されたお品書きと一緒に
“全国七大うどんに選ばれた”ことへの感謝が綴られている。ここで云う”七大うどん”とは、
稲庭うどん(秋田)、水沢うどん(群馬)、みそ煮込みうどん(愛知)に、
伊勢うどん(三重)、讃岐うどん(香川)、五島うどん(長崎)、
そして武蔵野うどん(埼玉・東京)だ。

“名物”と肩書のある「きんぴら」を註文んでみたら、
割と大胆な太さに切られた牛蒡のそれがやってきた。ピリ辛にして歯応えの心地いいきんぴら。
そして、「ほうれん草」は、
武蔵野うどんの一部地域では”糧”とも呼ばれる定番のシンプル総菜だ。

紛うことなき武蔵野うどんの店であろう「田舎っぺ」ではあるけれど、 “肉汁”ではなく「肉ねぎうどん」としているところが面白い。してその実態は、正真正銘の”肉汁”うどんだ。

しなやかにして力強く量感がある饂飩がいい。力強いけれど、決して硬くは、ない。
硬いのをウリにするようでは、
武蔵野うどんを認識し損なうひとを増やすばかりなので、
その観点からも実に素晴らしい。

粉の甘いような風味もほんのりと感じられ、
豚肉の甘い旨味がそれを相乗して美味しがらせてくれる。蕎麦湯ならぬ饂飩湯を供してくれるのも、
真っ当なる粉を使っている誠実さがゆえでありましょう。
いやー、大団円、大満足であります。

残念ながら近場ではないこともあって、
それから一年半弱間が開いてしまった或る夏の日。
ふたたび国道17号線、中山道沿いにやってきた。すると、ちゃんと長方形のフォルムだった暖簾が、
擦り切れてボロボロになっていた(笑)。
生地の丈夫さにもよるだろうけれど、
「田舎っぺ」のうどんを求めて、
どれだけの数のひと達が暖簾を払ったのか、
想像に難くないところです。

案内されたカウンターの隅で厨房の様子を眺める。
左手の湯殿前では、湯気とともに立ち動く、
主人らしき方の逞しき背中が映る。厨房中央の棚には、ほうれん草の小皿や、
トッピングの葱、生姜、油揚げあたりの小皿がスタンバイしてる。

カウンターでのご註文は、なすセットにきんぴらとほうれん草。「きんぴら」は、如何にも使い込んだ大鍋から、
掬い上げるように届けられるのであります。

セットの葱、生姜、油揚げの載った角皿には、
東風吹かば匂ひをこせよ梅の花……の和歌が謡われている。武蔵野うどんの他店では、
陶器や漆塗りなどの鉢に盛り付けるところも少なくないけれど、
此処「田舎っぺ」では、笊に盛るのが仕来たりである模様。

やっぱり飾り気なく、実直な麺が素晴らしい。薄切りの茄子をたっぷりと浮かべた汁もいい。
そりゃ、豚バラ肉の肉汁と地粉うどんとの相性には敵わないけれど、
「なす汁」も旨けりゃ、きっと「きのこ汁」も美味しいに違いない。

ご馳走様と告げたお会計の際、
持ち帰り用うどんパックに囲まれた、
二枚のモノクロームが目に留まる。創業当時の様子を示すものなのでしょうね。

北本は鴻巣寄りの中山道沿いに、
元祖の味、武蔵野うどん「田舎っぺ」北本店はある。世に”元祖”と謳いつつも、
元祖としての本懐を失ってしまっている店は、ある。
どっこい、ここ「田舎っぺ」は、歴年の風格ある佇まいも然り、
ヴィヴィッドで誠実で、なにより美味しいうどんの味も然り。
“元祖”の名に寄り添う武蔵野うどんの店だと、そう思っています。

「田舎っぺうどん」北本店
北本市深井7丁目159-2[MAP]048-541-4137
https://inakappeudon.com/

column/03835